パーフェクト・カップル Vol.2

パーフェクト・カップル:週刊誌に撮られた夫の、ヘタな嘘で“夫婦の終わり”が始まる

「嘘でしょ。認めるってこと?」

厳しく強い女性の声が、玄関のドアを開けた瞬間に聞こえた。

「遅くなってごめんなさい。」

小さくつぶやきながらリビングに向かうと、隼人と社長が、既にリビングで対峙していた。

社長は私のことをモデルデビューから育て上げてくれた恩人で、娘のように思ってくれている分、私に対する情が深い。だから私も安心して15年近い日々を、共に過ごしてきた。

1人で会社を立ち上げ、今では人気モデルが多く所属する事務所にした敏腕社長。「女が少しでもエキサイトすると、すぐヒステリーだといわれるから」と言って、めったに声を荒げることのない彼女の語気が荒くなっている。

隼人が、ちらりと私を見て、いつもの笑顔で「おかえり」と言った。

その表情からは焦りも嘘も感じられないが、「きちんと説明するから」と言った声には、反省の色が混じっていた。

コートを脱ぎながら、ふと、机の上の写真が目に入る。画像は荒いが、私にははっきりと隼人だと分かった。

私が選んだセリーヌのコートとマフラーを着けた隼人。そして、その隼人の袖を掴む、淡いピンクのコートを着た女性。

何枚か別アングルがあるのに、女性の顔立ちはどの写真でも認識できない。隼人の顔はどれもはっきりと撮れているのに、女性の顔は不自然なほどばれないように撮られている、という印象。さらに。

―これ、うちのマンションの前よね。

ゲラ、つまり記事の見本が印刷された紙に書かれた見出しの文字は、

『日本一の理想の夫に「帰らないで!」とすがる20代後半美女。午前3時の密会!』

写真と下世話な文字の羅列に、私は思っていたよりショックを受けた。しかも、私達の大切な家の前で撮られたなんて。

隼人は、私の様子をうかがっているようにも見えたが、相変わらず焦っている様子はない。私は、自分が興奮してしまうのが怖くて、隼人の正面、社長の横のソファーに座りながら、落ち着くための話題を出した。

「翔太は?すぐ寝た?」

「今日は結構グズらず、寝たよ」

仕事が早く終わった方が家事をして、子供を寝かしつける、いつもの夫婦の会話。

彼の言葉に私が「ありがとう」と返事をする。すると社長が本題に入れとばかりに、切り出した。

「女の子と2人でご飯に行ったことは、認めるらしいわ」

興奮した社長の言葉に、私が隼人の顔を見ると、隼人がここからは自分で説明させてください、と困ったように笑って言った。

「怜子、撮られたのはごめん。でもほんとに、浮気とかじゃない。」

「わかった。でもこの子が誰で、何で自宅の前で撮られたのか、説明してくれる?」

自分の口から妙に冷めた声が出たことや、「この子」ときつい言い方になったことに自分でも驚いたけれど、隼人はもちろん、といった風情でうなずいて、説明を続けた。

彼女は番組のスタッフで、番組内の人間関係に悩んでいるから、相談に乗ってほしいと言われて、根負けして食事に行ったこと。

その帰りに同乗していたタクシーで、先に降りたけれど、酔っ払っていた彼女に、もう一軒行きましょうと、せがまれてしまったこと。

「もちろん、タクシーに無理やり乗せて帰したけど。その時に撮られたみたいだ、ごめん。でも誓ってやましいことはない。」

彼の話に不自然な所は無い。

でも…。あれだけ警戒していた彼が、例え懇願されたからと言って「ただの後輩」と2人で食事に行くのだろうか?それが私の胸をざわつかせ始めた。

元々、何でも話しあってきた「親友」だった私と隼人。幸か不幸か、彼のことなら何でも分かってしまう。私は隼人の言い訳に微妙な「隠し事」を感じてしまった。

写真に目を落とす。淡いピンクのコート。ふわふわした巻き髪。きっと私より若いだろう。

―「ただの後輩」じゃないのかもしれない。

そんな考えがよぎってしまった時、社長が、我慢できない、と言った様子で、隼人に言った。

「とにかく、その女がどこの誰だか、はっきり言いなさい。」

「本当に、ただの会社の後輩なんですよ。でも彼女も結婚していて、僕と話題になるのはまずいから…。」

あくまでも女性の名と詳しい素性を伏せて庇おうとする隼人に、私の胸のざわつきは強くなり、言った。

「だからあなたが1人で、叩かれるっていうわけ?」

私の言葉に隼人は、「そう強く言うなよ、きちんと釈明会見も開けば分かってもらえる。会社にももう話してあるから」と言った。その呑気な声に、私の苛立ちは膨れ上がる。

―この人は、自分が「世間」に愛されている、と過信している。

「何にもやましくない」と言ったところで、この「不倫切り」とも言える世の中、簡単には許してもらえないだろう。その瞬間、私は、自分でも思いもしなかった言葉が口に出た。

「社長、記事はもう押さえられないんですよね?私達のキャリアに、どれくらいの影響が出ると思います?」

私の言葉に、2人が同時にこちらを見た。

「私たち夫婦、無傷じゃいられないなら、私が記者さんのインタビューに答えます。ねえ隼人。」

あっけにとられた顔でこちらを見ている彼に、私は冷静を装い笑顔で言った。

「女の子とも、きちんと口裏を合わせたいから紹介してくれない?」

夫への怒りか、「守られる女の子」への嫉妬だったのか。それとも本当にキャリアを守ろうとしたのか。

とにかくよく分からない感情があふれ出し、私は、自分でも思いもよらぬ方向へ突き動かされてしまった。


この時の隼人の顔は、今でも忘れられない。

この時、私がほかの方法を選んでいたら、私たちは今、どうしているのだろうか?


▶NEXT:2月11日 日曜更新予定
スキャンダル相手の「女の子」の素顔、そして妻の焦りから偽装生活は始まっていく



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<回答期間:2018年1月30日(火)~2018年2月6日(火)>

この記事へのコメント

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No Name
女の子を擁護してか、なかなか名前を言わないなんて、ほんとゲス。玲子は記者会見に自分が対応するなんて、強い!
2018/02/04 05:5399+返信1件
No Name
読みやすい文章の軽快なテンポ。
今後の展開に期待大。
2018/02/04 07:0699+
No Name
こうして、玲子は10年後、その強さを武器に国会議員となった
2018/02/04 06:1099+返信4件
No Name
面白い〜!
文章上手くてツッコミどころないから、コメント欄は静かだけど、内容はホント面白い!
ドラマになればいいのに!
主演は、吉瀬美智子・井川遥あたりで
2018/02/04 09:2988返信8件
No Name
表舞台に長年いる人のメンタルの強さは尋常じゃないでしょ。頑張れ!本当はこんな夫捨てて欲しいけどさ笑
2018/02/04 06:5864
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