パーフェクト・カップル Vol.2

パーフェクト・カップル:週刊誌に撮られた夫の、ヘタな嘘で“夫婦の終わり”が始まる

「今日のジャケット、マッキントッシュだよね?怜子が選んでるんでしょ?隼人くんに似合ってるし、高級すぎないのが好感度高いわ。さすがだね。」

仲良しのスタイリストが、私にヒールを履かせながらおどけて言った言葉に、私がピースで答えると皆が笑った。

通常、局のアナウンサーにはそれぞれスタイリストがつくが、隼人の番組出演時の服は全て私が選んでいる。

それは、隼人が雑誌の取材を受けた時に「夫婦で出かけるときは、妻に服を選んでもらっています」と言ったことがきっかけだった。その反響が大きかったことに目を付けた、番組の担当ディレクターに頼まれたのだ。

例えば金曜日なら「お休み前の解放感に合わせたカジュアルスーツ」などと考えながら選ぶことは、私にとっても思いのほか楽しいもので、番組内でそのことをイジられる隼人の、「愛妻家」としてのイメージアップにもつながっていた。

今日のスーツもよく似合い、立ち上がって動く度に隼人のスタイルの良さが際立つ。自分が選んだものが、さらに夫を素敵にみせていることが、私にとっても幸せだったけど。

さわやかで、一点の曇りもない笑顔で出演者と談笑している彼が、今何を考えているのか。もう彼の耳にも、写真を撮られたことは届いているのか。


「隼人が女の子と撮られた」ということに、私が強い違和感を覚えるのには訳があった。彼は日頃から、自分自身が「ターゲット」になることを、過剰なほど気にして生活する人だからだ。

「俺が撮られたら、番組に迷惑がかかる。」

視聴率争いの厳しい朝のニュース番組では、このご時世、出演者のスキャンダルは命取りになる。

だから隼人は、朝の帯番組のメインMCに抜擢されたときに、次の日が休みであっても飲み歩くことはやめたし、打ち上げでさえも1次会で帰る。そしてスタッフであろうと、外で女性と2人きりになることは避けていた。

「俺、今度の番組にかけてるから。」

誤解される行動は徹底的にさけ、真面目に勉強する。そのストイックさで、スポーツの中継をしていた時は「ただのイケメンアナ」扱いだった隼人が、国民的人気アナウンサーになった。

私は、そんな彼の努力を尊敬していたし、彼に「ふさわしい妻」でいようと思った。その結果が、私たちを「理想のカップル」に押し上げたともいえるのだろうけど…。

―もし本当に女の子と撮られていたとしたら…。

何か、特別な理由があるはずだ。とりあえず彼に話を聞かなければ。

人気のなくなったロケバスで、隼人にLINEを送る。

「局でももう問題になっているとは思うけど、今夜うちの社長が話を聞きたい、ということなので自宅での話し合いをお願いします。ロケ終わりで急いで帰ります。」


ちょうど送信した時、「怜子さん、準備できました、お願いします」と声がかかった。

私は憂鬱な気持ちを振り切りたくて、わざと大きな声で返事をしたあと、外に出た。

今日のテーマは「夫を惚れ直させる、春の服」。

1着目のスタイリングは、ミントグリーンのシフォンブラウスに淡いピンクのフレアスカート。幸せに満ち溢れたコーディネートで、微笑まなければならない。

私は、溜め息のような深呼吸をして「理想の妻」の笑顔を作った。

この記事へのコメント

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女の子を擁護してか、なかなか名前を言わないなんて、ほんとゲス。玲子は記者会見に自分が対応するなんて、強い!
2018/02/04 05:5399+返信1件
No Name
読みやすい文章の軽快なテンポ。
今後の展開に期待大。
2018/02/04 07:0699+
No Name
こうして、玲子は10年後、その強さを武器に国会議員となった
2018/02/04 06:1099+返信4件
No Name
面白い〜!
文章上手くてツッコミどころないから、コメント欄は静かだけど、内容はホント面白い!
ドラマになればいいのに!
主演は、吉瀬美智子・井川遥あたりで
2018/02/04 09:2988返信8件
No Name
表舞台に長年いる人のメンタルの強さは尋常じゃないでしょ。頑張れ!本当はこんな夫捨てて欲しいけどさ笑
2018/02/04 06:5864
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