突如思い知る、東京エスカレーター組との大きな違いとは
呆然としたあかりの横で、百合は大きな溜息をつきながら言った。
「玲奈はいいじゃん!天現寺出身なら、ご挨拶に行くルートもあるでしょ?うちは朝ドラの影響で、英和の倍率あがっちゃって…今年は10倍だって。卒業生といえども落ちちゃった子、いっぱいいるんだよ」
そういえば玲奈も百合も東京の出身で、下からエスカレーター式で進学したと言っていた。玲奈はあかりと同じ慶應卒なので、慶應幼稚舎出身のはずだ。
…ということは、テンゲンジとは幼稚舎のことか。確かに近所の、広尾にほど近い天現寺に、慶應の幼稚舎がある。しかしあかりは、幼稚舎を天現寺と呼んだことはないし、それが学校を指す俗称だとは知らなかったのである。
そして百合が出た東洋英和というのは、女子大、ということくらいしか知らなかった。小学校もあるらしい。
「最後の1年は、絵画と体操と少人数お教室と大手お教室だね。こんなの、みんなやってるよねえ」
玲奈が天を仰ぐしぐさをする。栗色のつやのあるロングヘアが後ろに流れ、テラスにふりそそぐ日の光を反射した。あかりは何か言いたかったけれど、手持ちの単語さえなかった。
受験?そんなことを二人が当然のように考えていることが驚きだった。そしてどうやらその世界のスタンダードを、すでに当然のごとく理解していることも。
「あかりはどこを狙ってるの?」
「うーん、うちは修司がお受験とか興味なくて。たぶん中学から受験するっていうんじゃないかな?」
「興味ないって…。いやいや、公立行ってどうするの?」
百合がきょとんとした顔で尋ねる。玲奈もうなずく。あかりは反論の余地がないことに気づく。
「え?ほんとに受験しないの?修司さんはともかく、お姑さんとかお母さんとかはそれでいいっていうの?」
心底不思議そうなふたりの顔をみながら、あかりは呆然とした。
なぜそこに母親が出てくるのだろう?どうやらお受験というのは一族の総意であるものらしい。なにか重大な間違いを指摘されたような気持ちになっていた。
「まあ、玲奈のとこは特別だよ。慶應一族じゃない。天現寺にあらずば小学校にあらず。地でいってるよね。うちはそこまで強固なコネじゃないから、相当頑張らないと、みなしごハッチになっちゃうよー」
百合の言葉をききながら、そうか、このままいくと旬はみなしごハッチになるのか…と、あかりは呆然ときいていた。
この記事へのコメント
井の中の蛙じゃない⁈ それにしても、旦那は商社でも都心で優雅な専業主婦、子供の小学校受験etc. と、収入はあるのに貯金出来ない家族の典型みたいだね。
本当東カレの主人公は流されやすい人ばかりですね。
子供を自己承認欲求のツールとする毒親。
もっと自分の人生を楽しめばいいのに。