はいすぺさんが通る Vol.13

“ハイスペックらしい生き方”をしないと「勿体ない」と責められる。はいすぺさんの窮屈さ

容姿、学歴、収入。男のスペックは高ければ高いほど良い。

が、同じだけのスペックを女が持ち合わせたとき、果たしてそれは本当に幸せなのだろうか。

東大卒・外銀勤めの楓はいわゆる「ハイスペック女子」。

4年ぶりに再会した憧れの人淡い恋心を抱くも、彼は楓を自身のファンドへ誘ったのだった。

女ではなく、優秀な人材としてしか見られていなかったのかと、女としての自信を失いつつも、キャリアのステップアップのチャンスに楓は心を決める

一方、親友の美里は、実家の耳鼻咽喉科を継いでほしいという両親の意思に逆らい、彼氏の転勤に伴って自身もワシントンで働くことを決断したのだった。

そして1年後、2人のはいすぺさんはそれぞれの人生を歩んでいた。


木漏れ日が、きらきらと眩しかった。

東京の無機質な街とは全く違う、広い空と澄んだ音の反射に楓の口元は自然と綻んだ。

その日、楓は軽井沢まで足を運んでいた。

旧軽井沢ホテルで開かれる、美里の結婚式のためだ。

付き合っていた啓太のワシントン転勤に美里が付いていくと決めたのと同時期に、楓のファンドへの転職も決まり、それから気づけばあっという間に1年だ。

新しい環境に慣れる、などと考える余裕すらない中で、山のように舞い込んでくる仕事に必死で向き合っていたら、飛ぶように毎日が過ぎた。

週末も仕事をしているか、日頃の睡眠不足を補おうと死んだように寝ているかのどちらかで、丸一日休みを作って東京を離れるのはいつぶりかもわからない。

それでも仕事は楽しかったし、前職より格段に責任も裁量も増えた新しい環境は、楓にはとても刺激的だった。

須藤への気持ちが全く無くなったと言えば嘘になるが、正直なところそれどころではない。

彼の職場での鬼上司っぷりは、最初からある程度は想定していたものの、想像以上に彼の要求水準は高く、余計なことを考えていたら即刻「高野さん、本当に頭絞って考えてる?」と喝が入る。

気付けば「女として云々・・・」よりも、「何としてでも仕事で彼に認められたい」という気持ちの方が強くなっていた。



美里の結婚が決まったのは、彼女がワシントンへ付いていく決意を啓太に話したすぐ後だったらしい。

美里の両親がそうすぐに納得してくれたことに楓は内心驚いたものだったが、それより当時驚かされたのは美里の今後の人生設計だった。

「私ね、研修医を終えたらしばらくは、のんびり新婚生活をあっちで楽しむことにしたわ。」

丁度1年前の春、楓は美里が何のことを言っているのか分からずただ目を丸くしていた。

「・・・え?あっちで働くんじゃなかったの?専業主婦になるの?」

「ふふふ、どう思う?」

「どう思うって・・・そりゃゆっくり新婚生活を楽しむのも良いだろうけど・・・。美里はそれで良いの?」

丁度ファンドへ転職したばかりで、仕事に意欲を燃やしまくっていた楓にとって、同じハイスペ仲間だと思っていた美里の発言は、正直あまりポジティブに受け止められなかった。

―今まで環境や仕事は違っても、一緒に励まし合って頑張ってきたのに・・・

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