東京の感度の高い大人にとってシュチュエーションに合わせたレストラン選びこそ、腕の見せ所である。なかでも本当に大切な人をエスコートするなら高級レストランという選択肢は外せない。
しかもただ高くて美味しいだけでなく、思い出を刻むようなレストランをセレクトしたいところだ。この連載は、世界的に有名なシェフが手掛けるレストランを元に、高級レストランの真価を探っていくものだ。
進化し続ける新しさが最高峰のレストランを創る
モダンキュイジーヌ(イタリア料理の革命児)と呼ばれ、ガストロミー界の頂点に立つ三ツ星シェフ、ハインツ・ベック氏。ローマで唯一10年以上三ツ星を保持し続けている『ラ・ペルゴラ』を拠点に、ポルトガルやドバイなどにも展開する。
なかでも『ハインツ ベック』は、るシェフが自らの名を初めて冠した思い入れある一軒だ。その特別なレストランで、現在エグゼクティブシェフとしてすべてを担うのはジュゼッペ・モラーロ氏。
ハインツ・ベック氏と同じ厨房で2年、その後各国のオープンに携わり9年もの間、ハインツ・ベック氏のフィロソフィーを受け継ぎ、実践している実力派。
『ハインツ ベック』の料理といえば、アーティスティックな美しさが印象的なイノベーティブイタリアンだが、ジュゼッペ氏は料理の斬新さだけではなく、味わいの“軽やかさ”を信条としている。
「ややもすると重くなりがちなイタリア料理ですが、私は味わいにおいては軽やかさを大事にしています。さらに、軽やかな中にも旨みをしっかりと表現するため、食材ひとつひとつを追求します。
そして、うちのような高級レストランに訪れるゲスト、すなわち食べるプロに対し、必ず新しい料理でもてなすことを徹底していますね」
その言葉の通り、13皿から成るコースのなかで野菜ひとつとっても食材が重複することがない。
さらに、2ヵ月ごとに変わるメニューで再び同じものが登場することはなく、好評だったものを再び採用する際には、必ずアプローチを変えている。
このように人気定番メニューというものを一切作らず、「あの料理をもう一度食べたい」というゲストに対しても、そのリクエストをさらに超える新しいメニューを提案しつづけているのだ。
「10年前の高級レストランでは、トリュフ、キャビアなどが当然で、言ってしまえばその辺りの高級食材を提供していれば満足してもらえる時代でした。
あえて秋刀魚を提供するという発想はなかったでしょう。しかし、現代では、どんな食材でも昇華させ、仕立てあげる広い視野こそが大切なのです」
常にゲストに新たな提案をし、感動を導くことによって、ファインダイニングで在り続けることができるのだ。