注文の多い女たち Vol.10

年下男と過ごす甘い夜。久々の恋に浮かれる注文の多い女が、彼の部屋で気になったこと

「最近、良い出会いがない」

未婚・美人の女性に限って、口を揃えて言う言葉である。

しかしよくよく話を聞いてみると、その言葉の真意はこうだ。

「理想通りの、素敵な男性がいない」

フリーランスでバイヤーをしている亜希(32)も、そんな注文の多い女のひとり。

ふさわしい人”を探して迷走する亜希。メガバンク勤務の宮田賢治とデートをするも、「海外志向がない」という一点だけで幻滅してしまう

彼には、ときめかない。そう結論づけていた亜希だったが、知らぬ間に宮田賢治は別の女性と付き合っていることを聞かされ、偶然にも二人が仲睦まじく歩く姿を目撃

しかし賢治から再びデートに誘われ、「あの子は彼女じゃない」と言われる。


自分で自分がわからない夜


「あの子は、彼女じゃないよ」

賢治は、一切の動揺を見せず、さらりとそう言った。

彼が、こんなにも上手に嘘をつく男だったとは。

穏やかで、誠実そう。賢治の印象といえばむしろそれしかなかったのに、あっさりと裏切られた思いがする。

「いやいや…だって見たもの、私。楽しそうに、仲良さそうに歩いてた」

−なんで私、浮気現場を目撃した彼女みたいなことを言ってるんだろう...

ムキになって詰め寄った後でふと我に返り、亜希は心を落ち着けるようにして、目の前の白ワインを流し込んだ。

賢治のことなど、なんとも思っていないはずだった。あの綺麗な子が、賢治の彼女であろうがなかろうが、亜希には何も関係ない。

しかしどうしても、確認せずにいられない。

「…本当に、彼女じゃないの?」

考えるより先に口から溢れた言葉は、そうであって欲しいという願望にしか聞こえなかった。言ってしまってから、亜希は自分で自分がわからなくなる。

ディナーは、そろそろ終盤だ。夜が更けるにつれ、カウンターに並ぶ他のカップルたちの親密さも増している。

「あのね、亜希さん」

賢治が、亜希の顔を覗き込むようにして身体を近づけ、ふいに改まった表情を見せた。

「誤解されたくないからはっきり言うね。俺、亜希さんが好きなんだ」

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