やまとなでしこ 2015 〜極上の結婚〜 Vol.3

極上な結婚相手候補?!いい男は10万円の美容液より女を潤す

前回までのあらすじ

27歳の桜子は「(並みの)結婚をした女は負け犬」と考え、持ち前の美貌と教養とセンスで「極上の結婚」を狙っている。某企業の次期社長のポジションにいる交際相手・隆弘を手堅く押さえつつ、更なる高みを目指し、同期の美穂が組んだ「すごい人が来る」という食事会に臨む。

「女の最高値は27歳」この1年を無駄にしては罪になる?

「先輩今日気合入ってますねぇ。」

マーケティング部の金曜定例ミーティングが終わり会議室を出ようとしたところ、可愛がっている後輩の瞳がニヤニヤして声をかけてきた。瞳は、168cmという長身で四肢が長く日焼け止めのCMに出演しているモデルに似ていると評判の美人だ。

会社帰りに、焼き鳥屋『益子』で瞳とふたりで飲めば、近くの広告代理店や、放送局勤務の男たちからの不躾な視線にさらされ、どこからともなく酒が降って湧いてくるし、六本木を歩けば、文字通り古今東西老若男女から声をかけられる。瞳は、この世に生を受けた瞬間すでに強力なカードが配られ、圧倒的アドバンテージの星のもとに生まれた。

それにも関わらずだ。

瞳は、桜子と同期の(うだつのあがらない)営業部の男と2年付き合い結婚目前だ。営業成績は中の上、Facebookを見る限り、仕事より部活のフットサルに熱を入れている男との進捗を嬉々として報告してくる瞳を見るたびに、この娘の脳周波は正常なのかと心底心配になる。

もっと上を目指せるはずなのに自分の実力に気付けない、もしくは気付いたとしても、その刃の使い方を知らないで錆びていく女たちの何と多いこと。目の前の瞳も同様、ツーペアあたりで手を打つなんてにわかに信じがたい。

桜子はぶるっと身震いして、淡いブルーのワンピースの裾を翻す。

「当たり前じゃない。今夜ロイヤルストレートフラッシュのカードが配られるかもしれないのよ。」



金曜日:20時25分

汐留から乗り付けたタクシーの後部座席で、女たちは最終チェックに余念がない。女性陣は、同期の美穂に香織と桜子の3名。ファンデーションのコンパクトに顔を近づけ上下左右隙がないか小鳥のように顔を動かすその様を、タクシーの運転手が訝しげにバックミラーで伺っている。

美穂が仕上げのリップを塗りながらもったいぶって言葉をころがす。

「今宵の殿方は、あの国分与一を筆頭に若き起業家たち。この前、パーティーで知り合ったのが国分さんのお知り合いの経営者で・・」

香織が興奮して美穂の言葉を遮る。

「え。国分さんって、あの最近よくテレビとか雑誌でよく見る人?上場時にご自身の持株を売却したキャピタル・ゲインで、莫大な資産があるって何かの記事で見たことがある。」

美穂が勝ち誇ったように笑みを浮かべる。タクシーの暗がりの中で妖しく光る唇が女から見ても色っぽい。素晴らしい面子を引っ張ってきた女は女王で、逆に割り勘請求される会を催した女は下女になる下がる。
美穂の今宵の手柄は、紫綬褒章並みに神々しい。

タクシーが、麻布十番の夜の帳が落ち闇に浮かび上がる黒塀の前で止まった。トリュフ御飯が有名な星つきの高級割烹『かどわき』が今宵の舞台だ。

開いたタクシーのドアからは、マロノブラニクに、ジュゼッペ・ザノッティ、ジャンヴィットロッシと色鮮やかな靴から細くしなやかな脚がのぞく。

桜子が振り返り微笑む。

「さ。行きましょう。キャピタル・ゲインでうはうはの時代の寵児たちから振舞われる美酒は、10万円の美容液より女を潤すのよ。」


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