「来月の1周年記念だけど」
心を見透かしたような切り込みに少しだけどきまぎしたが、動揺を微塵も見せぬよう柔らかい笑みを貼り付け、なぁに?と首をかしげる。
桜子は、隆弘の口から紡ぎだされる夢のような言葉を期待しながら、心の中で将来の青写真を描く。
隆弘が今住んでる広尾の丘陵地にあるヴィンテージマンションは、壁をぶち抜いた20畳のダイニングが気に入っている。カッシーナのクールなテーブルは櫻子の好みじゃないから変えてもらおう。プロポーズは、マルタ島やモナコが理想だな。あ、その前に、婚約指輪。ハリーウィンストンじゃあまりにも王道すぎるから少し外しておくのが上品かしら・・・
「桜子が行きたがってたレストラン、予約取れたから空けておいてくれるかな。」
隆弘の言葉に妄想から引き戻された。
マルタ島の言葉が出てこなかったことに、少しだけ落胆したものの、恐らくこのレストランで、プロポーズをしてくれるのだろう。仕事もできる隆弘のこと、きっと色々と考えてくれているはずだ。
27歳。
女が一番高値で売れる年だとあのドラマの主人公が言っていたが、この1年が桜子にとってどんな意味を持つか改めて肝に銘じる。平凡な結婚なんてしたくない。するならとびっっきりの極上の結婚じゃなきゃ意味がないのだ。
ふと同期の美穂からLINEのメッセージが届いた。
ー明日の食事会だけど、すっごい人くるからお楽しみに。ー
顔が緩むのを感じて慌てて引き締める。美味しいワインのせいで、体のコントロールが効かなくなっているようだ。
隆弘というカードは、丁重に大事にとっておかねばならない。しかし、最後の最後判子を押す日までは、更なる高みを目指さないのは女としての怠慢だ。神がくれたこの美貌、無駄にしては罪になる。と、昭和の歌姫も高らかに歌い上げていただろう。
生まれた時に配られた無限の可能性を秘めたカード、桜子はロイヤルストレートフラッシュを揃えて大勝利で上がるのだ。
美穂へすぐさま「了解」の旨を返信すると携帯をバッグの奥に沈めて、キャビアと赤ワインソースのタリオリーニを口に運び満面の笑顔を隆弘に投げかけた。
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