注文の多い女たち Vol.8

婚活は先手必勝。あれこれ注文つけてる間に、結婚向きの男はあっさり奪われる

彼の隣の、美女


−私に“ふさわしい”のは、彼だと思ったんです。

マミちゃんの言葉は亜希に、以前、親友のエミとともに良縁祈願に訪れた鈴虫寺の住職の話を思い出させた。

「あれこれ注文をつけてはいけません。ふさわしい人、それが一番です」

あの時そう言われて、心に刻んだはずだったのに−。

彼女と別れたあと、どうにも落ちてしまったテンションを上げようと、亜希は六本木ヒルズの『エストネーション』にコートを物色しにきた。

夜は取引先ブティックのオーナーと西麻布で会食がある。それまでにどうにか気分を上げたいのに、あれこれ試着しても全然しっくりこない。

もう少し丈が長ければ、とか、色味がもう少し明るければ、とか売り場には大量のコートが並んでいるのに、これ、というものが一つもなくてため息が溢れてしまう。

洗練された美意識に、強いこだわり。

フリーバイヤーとして活躍する亜希を作り上げたそれらの要素は、本来は誇るべきものだ。しかし今の亜希は、すっかり自分を持て余してしまっていた。

−あーあ、また振り出しかぁ...。

つい先ほど聞いた、宮田賢治の近況。手にしていると思っていたものは、知らぬ間にこぼれ落ちていた。


店を出て、当てもなく歩いていると、週末の夜だけあってカップルばかりが目につく。

すれ違う女性のファッションをチェックしてしまうのは亜希の職業柄なのだが、前方から旬のボルドーカラーのセットアップを着こなす華奢な女性に目が止まった。

ふわりと揺れるプリーツスカートの裾から覗く......


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