初ディナーは『CHIANTI 』で
「彩乃、こちら真理亜ちゃん。今日上京したばかりなんだけど、同じ年でしょ?仲良くしてやって。」
松田に紹介された真理亜が、サラサラとなびく長い髪を掻き上げながら「宜しくお願いします」と微笑む。
その仕草はまるで、スローモーションのように見えた。
「き、今日上京して来たんですか?」
「そうなんです。このお店が東京での、記念すべき初ディナーです。」
・・・ちょっと待って。
『キャンティ』が東京での初食事?
真理亜の発言と、人を巻き込むような独特のペースに、思わずこちらのペースも乱れる。
「このスープ美味しい〜。ここ、有名なお店なんですか?」
呑気にスープを飲んでいる真理亜を見て、鼻で笑ってしまった。こんな有名店すら知らないなんて、所詮田舎者だ。
とは言え、東京出身の人だって、この店に来たことない人はたくさんいる。 そもそも、数時間前までどこかの地方にいたくせに、どうして東京の中心人物であるような松田さんと知り合いなのだろうか。
「共通の知人の紹介で。」
聞けば、松田さんがお世話になっている音楽協会の会長が関西出身で、真理亜は神戸時代にその会長と知り合い、そこから松田さんと繋がったと言う。
それを聞いた途端、さっきまで私が感じていた優越感は、音を立てて崩れていった。
「真理亜ちゃん、結局家はどこにしたの?」
「麻布十番にしました。大使館とかも多くて治安良さそうだから、親も安心だという理由で。」
その答えを聞いて私は、今度は持っていたフォークを落としそうになる。
23歳、最初に住む家が麻布十番...。私なんて、池尻大橋がやっとなのに。
不意に、昔感じた苦い感情が、ヒリヒリと私の胸を焼いていく。
私は中学校から、カトリック系の私立の女子校に通っていた。いわゆる“良いところのお嬢さん”ばかりが集まるその学校に、いつしか馴染めなくなっていった。
いや、表面上は馴染んでいたと思う。馴染めるように、一生懸命取り繕っていたのかもしれない。
しかし実際のところ、大企業の社長や銀行頭取の愛娘達が集まるその学校の中で、一般企業勤めの家庭で育った私は肩身が狭かった。
その頃からだろうか。
いつの間にか、無理をして少しだけ自分を大きく見せるというワザが身についたのは。
「彩乃さんは、どこに住んでいるんですか?」
真理亜の質問に、ふと我に返る。
屈託無い笑顔で聞いてくる真理亜に対し「池尻です」と、私は小さく答えた。
この記事へのコメント
自分の稼いだお金で食事してからいってほしいわ
こーいう子って読モとかモデルの仕事だから、主人公は仕事も出来る可愛い頭のいい女になったら、絶対27歳くらいで差がつくから、そんな女ほっといて自分を磨く事だと思う。
23歳ならぜんぜん大丈夫!
顔も負けたくないならプチ整形してもいいと思うし。