女が女になる年齢:人と比較しないと安心できない女たち。そこから抜け出す女の共通点
「30歳のお誕生日、おめでとう」
麻里子は、30歳という節目の誕生日を高史に祝ってもらっていた。
高史が予約してくれていたのは、最近話題の『ナベノ-イズム』。以前、麻里子が行ってみたいと言ったのを覚えてくれていたようで、サプライズで連れて来てくれた。
その優しさが、よけいに麻里子を喜ばせた。
少し前までの麻里子の予定では、この日は大きなダイヤモンドの指輪が左手薬指できらめいているはずだった。まさか、結婚の約束もないまま30歳を迎えるなんて、考えられなかった。
だが今、ナイフとフォークを持つ麻里子の手の、どの指にもそんな物はない。
喉から手が出るほど欲しかったプロポーズの言葉ももらっていない。なぜなら、高史と結婚の約束なんてしていないから。
それなのに、麻里子はこの世の幸福を独り占めしているかのように、満ち足りた笑みを浮かべていた。
あんなに不安に思っていた30歳。
結婚も決めないままに、とうとう現実のものになってしまったというのに。