30歳までには―。
東京のいたるところで、呪文のように囁かれるこの言葉。
そのせいか、年齢を重ねることを嫌悪する女は多い。
だが、女には、女になる年齢があるのをご存知だろうか。
それが30歳なのかもしれない。
その時こそ、真の女としての人生が始まるのだ。
付き合って9ヵ月になる麻里子(29歳)と高史(33歳)。30歳までに結婚を決めたいと焦る麻里子だが、ゆっくり時間をかけたいと言う高史と意見が合わず関係がぎくしゃくし、久しぶりのデートでもケンカになってしまった。
最後のデートから2週間。
高史からは何も連絡がない。付き合い始めてこんなに連絡を取らないのは、初めてのことだ。
―このまま自然消滅、なんてないよね……?
良からぬ不安が、麻里子の心を押しつぶしそうになる。
―もっと早めに連絡して、一言謝ればよかった。
うじうじ悩んでいる間に時間が過ぎてしまい、連絡するタイミングを完全に逃した。
この2~3日、謝ろうと何度も考えた。だが、謝ったからと言って高史が結婚に踏み切ってくれるわけでもないだろう。
もう、30歳まであとわずかなのだ。
いっそのこと高史ではなく、新しい相手を探した方が良いのかもしれない。すごろくで言う「ふりだしに戻る」状態だ。
だが今の麻里子には、新しい恋愛をゼロから始めるほどの気力はない。ただ時間だけが無情に過ぎていく。
そして、どんなに悩みがあっても、仕事は容赦なく降りかかってくる。29歳ともなれば後輩も増え、責任ある仕事も任される時。恋愛ばかりで悩むわけにもいかない。
そんなことを考えながらデスクでうなだれていると、麻里子を呼ぶ声が背後から聞こえた。