女が女になる年齢:人と比較しないと安心できない女たち。そこから抜け出す女の共通点
「え、プロポーズなしって、それでいいの?!」
誕生日ディナーから数日後、ランチでその出来事を智美に話すと、まるで責めるように聞かれた。
智美が驚くのも無理はない。「30歳までに結婚を決めたい」と、並々ならぬ思いを語っていたのを、智美が一番よく知っているのだから。
だが麻里子は、智美の驚きに動じることなくにこりと頷きながら言った。
「うん、それでいいの」
「いいって麻里子、なんで?どうしちゃったのよ」
智美は、まるで風船が一気にしぼむ時のように脱力しながら言った。その様子が可笑しくて、麻里子はつい笑ってしまう。
「ちょっと、笑ってないでちゃんと説明しなさいよ」
そう言って唇を尖らせる智美を宥めるように、麻里子は話し始めた。
別れも覚悟した、再会の日
それは誕生日ディナーの少し前、破局の危機を迎えていた日まで遡る。
別れ話を切り出されることも覚悟して、高史と久しぶりに再会した日だ。あんなに心臓がドキドキしたのは、本当に久しぶりだった。
―もしかしたら、会えるのは今日が最後かも……。
そんな不安が、何度も頭をよぎり、高史に会う前はいつも以上に入念にメイクをした。
―もし今日が最後の思い出になるなら、少しでも綺麗でいたい。
そんな想いで鏡に向かっていた。
麻里子は、高史と出会う前の何年間も、恋の終わりは自分から切り出していた。
「ごめん、もう好きじゃなくなったから」と、言う方は簡単だ。ずっと前からその言葉を準備しているのだから。
だが言われる方にとっては、たとえ覚悟していたとしてもやはり衝撃的なのだ。
どんなに身構えていても、その言葉が空気に触れて耳に入ってきた瞬間、大きなダメージを受ける。
だから麻里子は、高史に会って開口一番に唇を震わせながら謝った。
何かを言われる前に。これから別れを切り出されるのだとしても、言っておきたかった。
「結婚を急かしてごめんね。30歳になるからとかじゃなくて、高史が好きだから、だから私は高史と結婚したい。気付くのが遅くて、ごめん……。もう30歳の結婚にはこだわらないから、これからも高史と一緒にいたいです」
麻里子が言い終えると、高史は無言で麻里子の腕をそっと引き寄せ、強く抱きしめた。
それからしばらくの沈黙が続いた後、高史は「はぁ~っ」と大きく息を吐き、麻里子の髪に顔を埋めたまま「良かった~」と言って、さらに強く抱きしめてきた。
「別れたいって言われたらどうしようかと思ってたんだ」
高史はそう言って、もう一度大きく息を吐いた。
こうして「結婚」についてのケンカは幕を閉じた。
◆
麻里子が事の顛末を話し終えると、智美は「そっか、丸く収まって良かった」と喜んでくれた。
だが、すかさず言った。
「プロポーズがなかった理由はわかった。それで結局、結婚はするの、しないの?」