人形町の女 Vol.1

人形町の女:結婚生活3年目。29歳女が抗えぬ「子供を持つ」ことへの漠然とした不安

結婚して家を買い、そして子どもを授かる。

今まで「幸せ」だと信じて疑わなかったもの。

しかしそれを信じて突き進んでいくことが、果たして幸せなのだろうか?

外資系化粧品会社でPRとして働く祐実、29歳。

結婚後豊洲に移り住んだ彼女は、水天宮に参拝した帰りに人形町に立ち寄り、ある思いに駆られ、悩み始める。

これは東京でもがき苦しむ女性の、人形町を舞台にしたある物語―。


その日は5月なのに、うだるような暑さの土曜日だった。

祐実は、夫と水天宮にお参りに行き、帰りに人形町通りを歩いていた。すると、12時になったと同時に三味線の音色が聞こえてきた。

どこから流れているのだろうと辺りを見回すと、そこには時計台があり、時計の下にある人形がくるくると回っていた。

祐実は思わず、その場で立ち止まる。

12時から19時までの間、毎時2分間回り続けるという人形に、なぜか、強く惹きつけられたのだ。

1時間ごとに2分きっかり、規則正しく、操られる人形。

それはまるで、祐実の人生そのもののように思えた。



祐実は、浅草で生まれ育った。

両親は、母親の不貞が原因で14歳のときに離婚したが、老舗の食料品店を営んでいた父親に引き取られ、何不自由なく育てられた。

「祐実ちゃんは、お人形さんみたいに可愛いね」

長いまつ毛に縁取られた大きな二重は昔モデルをやっていた母親ゆずりだったので、そう言われる度に複雑な気分になったが、特段大きな問題もなく、祐実は美しく成長した。

しかし破天荒な母親を見てきたせいか、できるだけ「まっとうな人生」を歩みたい、と祐実は強く思っていた。

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