人形町の女 Vol.2

人形町の女:穏やかな結婚生活に生じた歪み。“次のステップ”への夫婦間の温度差

結婚して家を買い、そして子どもを授かる。

今まで「幸せ」だと信じて疑わなかったもの。

しかしそれを信じて突き進んでいくことが、果たして幸せなのだろうか?

外資系化粧品会社でPRとして働く祐実、29歳。

結婚後豊洲に移り住んだ彼女は、水天宮に参拝した帰りに人形町に立ち寄り、ある思いに駆られ、悩み始める。これは東京でもがき苦しむ女性の、人形町を舞台にしたある物語―。

結婚生活3年目。水天宮へお参りに行った祐実に、妊娠の兆候があった。



―もしかして、妊娠…?


iPhoneのアプリで確認すると、毎月のそれはもう1週間ほど遅れていた。

体中が心臓の音で波打ち、祐実はベッドから出た。その感情は、自分でもまだ経験したことがないものだった。

しかしこの月曜の朝8時にすべきことは、ただひとつ。

いつも通り朝食を食べ、会社に向かうことだろう。

祐実が洗面台から出ると、純が靴べらを使って皮靴に足を押し込みながら、「行ってきます」と出て行った。

祐実はそれを見送り、この間人形町に行ったときに買った日本茶を淹れ、いつも通り朝粥を作って食べた。普段朝食は別々で、純はコーヒーだけ飲んで出て行く。

純との生活は、概ね順調だ。

友人の加奈子などはしょっちゅう旦那の愚痴を言っているが、祐実にそうした不満はない。純にときめくことはないが、それは家族として当然のことだ、と思っている。

だからこそ、きっとこれは喜ぶべきことなのだ。

そう自分に言い聞かせ、家を出た。

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