高学歴の男女がしがちな、“脳内カテゴライズ”
史子は、広尾にメンタルクリニックをかまえる心理カウンセラー。
華奢な身体からすらりと伸びた手足に、切れ長の目が印象的な美人。気の強そうな目つきは、彼女の凛とした美しさを一層引き立てている。
白衣が抜群に似合うルックスゆえファンも多く、特に男性の患者が後を絶たない。
「あなたたち、常に相手を “脳内カテゴライズ”しているでしょ?」
史子の言葉に、2人はきょとんとする。
「脳内カテゴライズは、『こういう言動をする人は、こういうタイプ』って相手を分類して、分析すること。論理的思考が得意な人に多いの」
翔はコンサル、景子は弁護士。間違いなく、典型的なロジカル脳だ。
「でも、何が問題なの?分析した上で適切なコミュニケーションを取ることこそ、最適解じゃないかな」
納得がいかない、という面持ちで翔はきり返す。
「それができていないから、あなた、恋愛で悩んでいるんでしょ?」
ジロリと史子に睨まれ、翔はうっ…とのけぞる。
「問題は、カテゴライズそのものじゃないの。言い方よ」
史子は続ける。
「まず、翔。あなたの最近のデートでの失敗談を教えて」
「えーと…最近デートした国立大出身の女性に、『国立大の人って何かが突出しているというよりは、全体的に平均以上を取るタイプが多いよね。きみもそうでしょ』って言ったんだ」
うわぁ…と景子が顔をしかめる。
「そのときは彼女、こわばった笑顔で、そうですねって言ってた。そのデートの後から、LINEは既読スルー…」
しゅんとした様子でうつむく翔に、史子はたたみかける。
「女性はね、男性に一般的な傾向で語られると、反発心が出るの。女って皆と同じでありたいという気持ちと、特別でいたいっていう相反する願望を持っているのよ」
「分かる。私も数年前、みんなが持ってたバレンシアガのシティが欲しくなって、買ったもの。でもまわりと差をつけたくて珍しい色にしたり、インスタの”いいね!”の数に差をつけるためにコーディネートにこだわったりとか、正直かなり意識しちゃったな」
景子も苦笑いしながら、史子に同意する。
「そうなのか…君のことを分かってるよ、って示したかっただけなのに…」
翔は深いため息をつきながら、頭をかかえる。
「そして、景子」
史子の鋭い視線を受け、景子はぎくりと肩をこわばらせる。
「例えば翔とデートしたら、『東工大卒の人って、頭の回転は早いのよね』とか言うんじゃない?」
ひ…と声にならない声を発しながら、景子は怯えたように史子を見つめる。明らかに、似たような(あるいはど真ん中の)案件があったようだ。
「それはないなー。高学歴の女に上から目線で褒められても、男はプライド的に不快だぜ?」
翔は矛先が変わって安心したのか、ははは、と笑いながらつっこむ。
「翔も景子も、お互いを笑ってる場合じゃないのよ」
史子のぴしゃっとした声色に、2人は怒られた犬のごとく、びくっと肩をふるわせた。
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