店選びに合格しても、気の抜けない会話の応酬は続く
「へぇ、お洒落なとこだね。麻耶、予約ありがと〜。」
この日集まったのは、麻耶も含めて女4人。
体型維持のため、肉と卵とチーズを積極的に摂るというカリナに合わせて、銀座にあるモダンギリシャ料理の人気店『THE APOLLO』を予約した。
東急プラザの最上階、景色もインスタ映えも抜群のこの店は、ヘルシーなラムショルダーのグリルに、日本ではこの店でしか食べられないチーズもオーダー出来る。
「私はこの子の彼氏でもないのに、なんでこんなに店選びで苦労しているんだろう?」と自問自答しつつも、料理をパシャパシャと撮影するカリナたちを見て、ホッと胸を撫で下ろした。
だが、それはすぐに始まった。
「麻耶のバッグ可愛いね。miumiu?」
スタッズ付きの、ピンクベージュのトートバッグを見て、カリナが唐突に言い放つ。
「それ、3年前のやつだよね。私も色違いの黒持ってたけど、25歳過ぎてmiumiuだと、ちょっと若いかなぁと思って妹にあげちゃった。」
…迂闊だった。
今日は薄手の白いリブニットに、黒のミモレ丈スカートを合わせ、モノトーンコーデの差し色としてピンクベージュのバッグを持った。
ゆるく巻いてアップにアレンジしたヘアスタイルと、長めの揺れるピアスともバッチリ合ったコーディネートだと思ったが、完全に失敗だ。
一緒に歩く女のファッションセンスには人一倍うるさい美女達と女子会をするのに、3年前のバッグを持ってきてしまった自分を呪わずにはいられない。
モヤモヤとした発言にイラっとしつつ、「そんなの、別にどうでもよくない?」と切り返すこともできない。
ーお母さんから貰った、一周回ってヴィンテージ風になってるフェラガモにすれば良かった…。
心の中にモヤモヤが沈殿していくと同時に、ムクムクと湧きあがってくる反撃欲。
たしかにカリナ達は綺麗で、センスも良く一緒に過ごしていて誇らしい。彼女達とお食事会に行けば、学生時代の友人達と行動するよりも何倍もの恩恵を受けることが出来る。だから、そろそろ婚活も視野に入れている麻耶としては、出来れば仲良くしていきたい。
だが、カリナからの攻撃をさらりと微笑み返す境地に達するには、まだ経験も年齢も足りない。
―今はカリナだって港区に住んでるけど、所詮は熊本出身だし…。
意地の悪い気持ちは、そう簡単には抑えられない。
この記事へのコメント