2017.03.21
SPECIAL TALK Vol.30答えは現場にこそありだからこそ、常に店舗に足を運ぶ
金丸:経営がうまくいっていると、会合とかゴルフとか仕事以外での誘惑も増えると思うのですが……。
宗次:そうでしたが、私は見向きもしませんでした。私のような三流経営者が何か事を成そうと思ったら、よそ見はできません。社長の間は友達も一人もつくらず、大好きだったクラシック音楽も封印しました。そんな時間があったら、お店のことをやっていたいし、そういう姿を見せることが、従業員の信頼を得ることに繋がると思っていましたから。
金丸:わかっていても、そこまで徹底できる経営者はそういません。そういう意味で、宗次さんは経営者のステレオタイプから逸脱しているとも言えますね。
宗次:私には学もなければ、能力もない。経営資源はゼロでした。だからこそ、確信を持って言えるのは、柔軟な〝行き当たりばったり〞の経営が一番だということです。目の前の課題を一生懸命解決する。その繰り返しです。
金丸:宗次さんの言う〝行き当たりばったり〞とは、つまり「すぐに行動し、解決する力」に言い換えられると思います。行動してダメだったら、別のやり方に変えればいい。
宗次:もちろん最初からすべてがうまくいっていたわけじゃありません。ですが、苦労しても一生懸命問題に向かっていれば、ちゃんと軌道に乗せることができるんです。
金丸:課題に向き合い、一つひとつをしっかり解決していくことが大事だと。
宗次:そうですね。常に現場に足を運び、現場を見ていれば、いいアイデアや次の方向性が見えてきます。だからうちは外部の経営コンサルタントに頼ることもなく、ライバル企業が何を仕掛けてこようと動じませんでした。地道に目の前の問題をクリアしてきただけです。
金丸:その実直で地に足のついた姿勢が、会社をここまで成長させたのですね。
行動の源泉は感謝自身を動かす感情とは?
金丸:2000年に株式を公開し、経営手腕を振るわれていたにもかかわらず、2年後には第一線から退かれます。その引退の早さに驚いたのですが、元から決めていらしたのですか?
宗次:いやいや。実はこれも〝行き当たりばったり〞でして(笑)。引退する1年ぐらい前に、当時副社長だった浜島俊哉社長に「社長をやろうという決心がついたら、いつでも言ってほしい。その日を楽しみに待っている」と伝えていたんです。
金丸:そうなのですね。どのくらいで決心がつくと思われていたのですか?
宗次:2〜3年後かなと思っていました。それまでに1,000店舗を達成するのは確実だったので、本音を言えば、そのタイミングまでは第一線にいたいなと。そうしたら、半年後に「やらせてください!」と言われてしまって(笑)。
金丸:大分早まりましたね(笑)。でも言った手前、引くに引けない。
宗次:まさに。それに、やっぱりうれしかったので。
金丸:でも、これまで仕事一筋でこられたのに、急に仕事がなくなってしまうのは、不安じゃありませんでしたか?
宗次:周りのみんなにもかなり心配されました。しばらくはのんびりしていたのですが、半年後にはNPO法人「イエロー・エンジェル」を立ち上げ、一気に忙しくなりました。
金丸:具体的には、どのような活動をされているのですか?
宗次:音楽やスポーツに打ち込んでいる方たちを応援する活動をしています。特にクラシック音楽の若い演奏家を支援したり、全国の学校のブラスバンド部に楽器を提供したりしています。
金丸:先程クラシック音楽が大好きだと伺いましたが、好きになったきっかけは?
宗次:高校1年のときに、友達からナショナルのポータブルテープレコーダーを譲ってもらったのが、きっかけです。アルバイトで貯めたお金で買ったんですよ。1,000円の5回払いで。私にとっては、はじめての宝物でした。バレーボールの練習のあとテープレコーダーを抱えて帰ってきて、早速録音しようとテレビのチャンネルを回したんですが、歌謡曲が全然やっていなくて。唯一やっていたのが、教育テレビの『N響アワー』。NHK交響楽団なんて知らなかったけど、取りあえず録音したんです。
金丸:これも、行き当たりばったりじゃないですか(笑)。
宗次:何でもいいから、テープレコーダーをガチャガチャ操作したかったんですよ(笑)。それで次の日の朝、再生ボタンを押したら、美しい旋律が流れてきて。それが、私の琴線に触れまして、すっかりクラシック音楽にはまってしまいました。あとでわかったんですが、そのとき録音した曲というのが、メンデルスゾーンの『ヴァイオリン・コンチェルト』でした。
金丸:その偶然が、いまの若手演奏家の支援につながっているのですね。
宗次:みなさんものすごく頑張っているんですけど、やはり芸術活動にはお金がかかるので、奨学金制度が少しでもお役に立てればと思っています。一人でも多くの演奏家に世界で活躍してほしいですね。
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