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  • いい女の条件 Vol.4

    いい女の条件:デート中に、昔の男を想う。目の前に見える彼は“ちがう”のサイン...?

    「やっぱりお前、元気ないよな?」

    帰り道、光司がそう聞いてきた。「そうだね」と笑いながら返すと、光司はふっと自嘲気味に笑った。

    「まぁ俺もまだ失恋の傷が癒えてないけど…」

    杏奈は勇気を出して、聞いてみた。

    「そうなんだ。誰と付き合っていたの?」

    光司は、まっすぐ前を見つめ直す。

    「…実は、社内の人なんだ。相手に迷惑かけるかもしれないから、名前は言えないけど」

    光司は、普段決して見せない切なそうな表情を見せた。

    ―葵先輩のこと、大切に思ってるじゃない。まだ好きなんだろうな。

    これ以上聞けなかったが、杏奈の気持ちは固まっていた。

    「私、元彼にやり直したいって言おうかな。自分の気持ちに素直になりたい」

    光司もね、とちゃかし気味に言うと「そうだな」と神妙な面持ちで返す。



    光司と別れたあと、杏奈は思い切って剛に電話した。1ヶ月ぶりに聞く剛の声。安心して思わず涙声になる。

    剛は「久しぶりに食事にでも、行こうか」と言ってくれた。嬉しくて、たまらなかった。

    1ヶ月ぶりに、恵比寿のレストランでの再会。8年付き合った2人の仲は、取り戻せるのか!?


    待ち合わせの10分前に店に着くと、剛はすでに待っていた。

    「…元気してた?」

    1ヶ月会っていなかっただけなのに、お互い少し緊張している。

    「うん、まぁぼちぼち。杏奈は?」

    そう聞かれて、杏奈は久しぶりに「剛、あのね」と無邪気に話していたころの自分を思い出す。

    「私が落ち込んでいたら葵先輩が気晴らしにって、ドライブに誘ってくれたの。葉山のプライベートヴィラでやる料理教室に行ったんだけど、すごく楽しくてね…」

    ハンバーグを作ったこと、それがすごく美味しかったこと、試食中に恋愛話で盛り上がったこと。

    いきいきと話す杏奈を見て、剛はこう言った。

    「今だから言うけど、杏奈は常に“これやらなきゃ”って急きたてられていて、見ていてしんどかった。今日の楽しそうな感じのほうが、断然いいよ」


    確かに、剛の言うとおりだった。年次を経て仕事の責任が重くなり、プレッシャーに押し潰されそうな日々。ネガティブなことを言いたくなくて、自然と会話は減っていった。

    杏奈は、常に虚勢を張っていた。いつも仕事を頑張って充実している私…。実態はそれに追いついていないのに、常に周囲に求められる“いい女”でいようと無理していた。

    この間のドライブ中、葵に言われて気づいたことがある。

    「誰から見ても“いい女”目指すとさ、自分がないから“どうでもいい女”になっちゃうんだよね。私もそういうとき、あった」

    いつも楽しそうにしている葵からの、意外な言葉だった。

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