一生に一度は食べたい。生ハムの王様“クラテッロ ディ ジベッロ”
「参りました。最初からそんな笑顔に迎えられてしまうと、僕はイイ歳して思春期の中学生のようになってしまいますよ」
久保はたっぷりと黒トリュフの乗った焼きたてのライ麦パンを手にしながら、お得意の流し目でひな子を見つめた。彼は食事相手として不足ないうえ、心はトリュフの香りでふんわりと満たされ、ひな子は上機嫌だ。
「相変わらずお上手ですね、久保社長。でも、社長の周りには美女が沢山いらっしゃるの、知ってるんですよ。私なんか、足元にも及ばないわ」
二人は薄く笑い合い、黒トリュフを大口で頬張る。
相変わらずの軽口を楽しんでいるうちに、料理はひな子が心待ちにしていた生ハムに突入した。
「姫、この岐阜のプロシュートは、東京ではこの『ペレグリーノ』と『SUGALABO』の2軒でしか食べられないと噂の、幻の生ハムですよ」
生ハムは噂に違わず、衝撃としか言えない味わいだった。高橋シェフの神のような手で一枚一枚スライスされ、次々と客にサーブされる。
「あら、さすが殿。あの都内で一番口説ける店と名高い、『SUGALABO』にも訪問済みなのかしら?電話番号非公開って聞きましたけど」
「姫にはやはり、敵わないな」
そしてひな子の目の前に、『ペレグリーノ』のスペシャリテ、生ハムの王様“クラテッロ ディ ジベッロ”が差し出された。
―お、美味しい......!
発酵バターと平焼きパンと共にいただくそれは、まさに「一生に一度は食べたい」と称されるに相応しい味わいで、ひな子は素直に感動を覚える。
「姫、満足していただけましたか」
―あぁ、この舌の上でトロける生ハム、永遠に食べていたい......
ひな子は隣のセレブ王子に返事をする余裕もなく、一人料理に陶酔した。
「本当に美味しいものが好きなんだね。それだけ幸せそうに食べてくれたら、男冥利に尽きますよ」
久保は半ば呆れたように、美食に没頭するひな子を保護者さながらに見つめた。
◆
パルマの郷土料理を本場さながらに再現したコースは、魚料理、手打ちのパスタ、メインの肉料理、デザート、茶菓子と続き、最後に久保は、突然大きな薔薇の花束をひな子に差し出した。
「姫、お誕生日おめでとうございます。ぜひ、また食事をご一緒させてください」
最高の食事とセレブ王子からのもてなしで、さすがのひな子も有頂天になる。しかし、そんなシーンでも素直に首を縦に振れないのが、高飛車女の性である。
「それはもちろん、メニューによります」
ひな子は柔らかく微笑みながら、いつもの決めゼリフを口にしていた。
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