男性から食事に誘われたら、ひな子は必ずこう答える。
「メニューによります😏最近忙しいので......」
美貌・知性・若さという女の市場価値を決める3大条件、すべてにおいて最高値を誇る女・ひな子。
―中途半端な店に、私を誘わないで―
そのセリフの意図を汲み取った選ばれし男たちは、高飛車に肥えた彼女の舌を唸らせるべく、東京中の美食をめぐり、試行錯誤を繰り返す。
さて今宵、ひな子様を満足させるレストランのスペシャリテとは?
アパレル会社経営、イケメン社長。独身貴族が提案する、とっておきのメニューとは...?
―姫、待望のあの店の予約日が、とうとう3日後に迫って参りました。姫のご気分が変わられていないことを祈ります―
LINEに表示されたメッセージを目にして、ひな子はふっと口元を緩めた。
シュールな文面をひな子に寄こしたのは、アパレル会社社長の久保である。
彼は35歳という年齢ながら、20代の男に引けを取らない爽やかで甘いキラースマイルと、鍛え上げたスマートな体躯が印象的な男だ。
加えて景気も良く、年相応の知的さとユーモアも兼ね備えているのだから、まさに都会のアッパー層に君臨する独身貴族と言えよう。
―ええ、楽しみにしておりますわ、殿。―
こういった自分と同等の市場価値の男と、おふざけのような会話をするのが、ひな子は嫌いではない。
そして美味しいものに目がないひな子は、「死ぬ前に一度は食べておきたい」と名高い、あの生ハムを思い浮かべ、小さく舌なめずりした。
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