薔薇色のバツイチ Vol.10

薔薇色のバツイチ:プライドは崩壊寸前。男女の駆け引きに敗れた女の、長い憂鬱

「いや、実はちょうど今日言おうと思ってたんだ」

幸夫はとってつけたようなセリフを吐いた。一瞬震えたように聞こえた彼の声だが、今は何も動じることなくいつもと同じ、冷静な大人の男。

それが余計に悔しかった。この事が本当であるのなら、せめて幸夫の慌てる姿を見たかった。慌てて「ごめんね」とすがる彼を、レストランに置き去りにして立ち去る。

せめて、そんな女にさせてほしかった。



1時間後。あゆみは目黒に向かうタクシーに一人で乗っていた。

外苑西通りを走るタクシー。時間はまだ22時をまわったところ。幸夫を運命の相手と信じた自分は、もういない。

「あなたの言う通りだったわよ」

自虐を込めて、春馬にLINEを送った。笑ってもらって構わない。いっそのこと思い切り馬鹿にすればいい。もう、なんでもいい……。

メッセージはすぐ既読になり、返事がきた。

「何してるの?」

表示された文字を見て、何も考えずに返す。とにかく何も、考えたくない。

「目黒に帰ってるところです」
「じゃあ、恵比寿で。ガーデンプレイス。」

あのマイペースな男らしい返事がきた。何でもない時であれば腹を立てるような物言いでも、今なら些細なことに思える。

「運転手さん、やっぱり恵比寿にお願いします」

それだけ言って、シートに深く身体を沈めた。ちょうど飲み直したい気分だ。それに、このまま一人の部屋に帰りたくもなかった。冷え切った部屋に帰っても、底なし沼に飲みこまれるように、深く深く沈み込む自分しか想像できない。


ガーデンプレイス前のアメリカ橋で降りると、道路の反対側に春馬が立っていた。寒そうに、白い息を吐きながら夜空を見上げて。その姿を見て、あゆみはゆっ......


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