チヤホヤされたい東京妻 Vol.8

モノトーンな服しか着なくなった妻に、見向きもしなくなる夫。深まるばかりの夫婦の溝

結婚して妻になった途端、女はオンナでなくなるのだろうか。

かつてはあれほど自分を求めた夫も、結婚後は淡白になり、ただ日々の生活を営むパートナーになった。

外見に気を遣い、綺麗な女であろうとしても、褒めてくれるのは同じ主婦ばかり。

妻でありながらも葛藤を抱える、豊洲在住の遥、港区在住のマキコ、目黒在住の亜希、光が丘在住の紗弥香の4人。

今週は、アイドルにハマってしまった旦那に愛想を尽かせ、同じ既婚者の会計士に心惹かれる紗弥香の揺れ動く心理に迫る。


紗弥香は思った。
何があっても、絶対にこの人を失いたくないと。

マキコ達との食事会で知り合った会計士の野田は、紗弥香が何を必要としているのか、どんな言葉をかけて欲しいかが、透けて見えているようだった。

落ち着いた雰囲気に、知的な会話。大人の女性をスマートにエスコートしてくれる、まさに紗弥香の理想の男性だ。

対して紗弥香の夫は今、若いアイドルグループに夢中で自分には見向きもしない。

年甲斐もなくアイドルの動画を観ながらPCに向かって叫んだりライブに通い詰める様を見ると、怒りと言うよりも侮蔑の感情が湧く。

紗弥香は、そんな夫を見る度に何千回呟いたか分からない独り言を繰り返した。

「何でこんな人と、結婚しちゃったんだろう」



夫婦喧嘩で落ち込むマキコを励ますために開催した六本木でのランチ会は、ワインをボトルでオーダーしたこともあり随分と長引いた。

ほろ酔い気分で解散した紗弥香は、ふと広尾まで足を伸ばし、子供服のfamiliarで娘の洋服や幼稚園の小物を買い足そうと思いつく。

広尾のfamiliarの店内はそう広くないが、店員も丁寧でデパートの店舗よりも居心地が良い。紗弥香はこの店で、ファミリアチェックと呼ばれる印象的なパターンを中心としたデザインのもの、ネイビーを基調にしたシンプルなワンピースなどを次々と選んでいった。

愛娘の為に可愛らしい子供服を選んでいると、紗弥香は母親になって良かったとじんわりと感じることが出来る。あんな夫だけれど、娘の母親になれたという事実のみで、自分の選択は間違っていなかったとも思えるのだ。

やや酔いが残っていたのも手伝い、結局紗弥香は両手いっぱいの紙袋を抱えることになった。幸せな気分に浸ると、本当に好きな相手と取り留めのない会話をしたくなる。紗弥香はスマホを取り出し、野田にLINEメッセージを送った。

ー今日は、マキコ達とランチしてきたの。すっごく美味しいお店で、ワインも飲んで、良い気分。早くまた、会いたいです。

数秒経たないうちに既読になり、すぐに返信が来る。

ー僕も

ー会いたい。今、ちょうど紗弥香ちゃんのこと考えていたんだよ。

まとまった文章を作成する時間を惜しんで、こうして自分にすぐに返信をしようとしてくれる野田のことが、紗弥香は愛おしくてたまらなかった。

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