行列に並んで食べるラーメンが美味しいのは、何故か。
さとみは聞き上手で、つい喋りすぎてしまう。
生牡蠣とシャンパンから始まり『小野木』名物・海老の炊き込みご飯に辿りつく頃。亜季は、まだ消化不良となって胃もたれしている祐也事件を、洗いざらいさとみにぶちまけていた。
さとみは終始笑みを絶やさず、適切なタイミングで相槌を打ちながら亜季の話を聞いていたが、亜季が一通り話し終えると、艶々と潤った唇をゆっくりと開いた。
「…行列に並んで食べるラーメンって、特別美味しく感じるのよねぇ。」
その言葉の真意を理解しかねている亜季に、さとみは続ける。
「あれって、並んでまで食べた自分を納得させたくて、そう思い込んでいる部分が大きいと思わない?時間を費やして得たものは、価値があるって思いたいから。…そして、その逆もまた然り。」
さとみの言いたいことを理解し、亜季の胃もたれはさらに悪化する。
24時に呼び出され、ほいほいホテルにまでついていった亜季は、祐也にとって立ち食いラーメンに成り下がってしまったということ。
まるで店名も記憶に残らず、立ち寄ったことすら忘れてしまうような。
「でも私、別に祐也のこと好きじゃないし。どう思われようが…」
苦々しい気持ちを払拭したくて力なく反論した言葉を、今度はさとみがぴしゃり、と遮る。
「そりゃあそうよ、1,2度会っただけだもの。でも、好きになる可能性はあった。お互いにね。なのに、可能性の芽を自分で早々に刈り取った。」
さとみの言葉は、亜季に祐也の無防備な笑顔を思い出させた。
その残像は亜季の胸をきゅっと締め付ける。しかし、その痛みが示す感情を認めるにはもう、遅すぎた。
私も、今年こそ結婚する...!
さとみと別れ、恵比寿の自宅に戻った亜季は力なくベッドに倒れ込んだ。
1Kの小さな部屋に無造作に置かれたままの、まだ読んでいない雑誌が目に入る。
亜季と同じアラサー女子をターゲットにしたその雑誌の、表紙にでかでかと書かれた見出しを見て、亜季は失笑した。
『今年こそ、結婚する!』
日本全国に何千何万と存在するであろう、見知らぬ戦友たちの並々ならぬ決意。
勝手に仲間意識を感じた亜季は、自分だけ言い訳をしている場合じゃないぞ、と自分に喝を入れる。
「24時の誘いは、断る一択。」
誰もいない部屋でひとり呟き、亜季は大きく頷くのだった。
次週1月25日 水曜更新
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