サトコは広島出身の32歳。広告代理店の営業をしており、年収は約700万。兄二人の下、唯一の女の子として大切に育てられたため、末っ子気質がどうしても抜けきれない。
落ち着いて淡々と話すため仕事関係の人からは「しっかり者」や「ちょっとキツイ人」として通っているが、実は彼氏はもちろん友人にも甘えたいタイプ。
優柔不断で、一度決めたことでも「もっと良い方法があるんじゃないか」と考え、ドツボに入ってしまうことも多い。
そんなサトコだが、今回の決意に後悔はなかった。後悔があるとすれば、それは彼と4年間も付き合ってしまった事。彼に30歳を祝ってもらったあの日、こんな結末が待ち受けているとは思いもしなかった。
―これからどうしよう。部屋探しも、面倒だな……。
頭を抱えながら、冷たくなった抹茶ホワイトチョコレートを一気に喉に流し込み、サトコはゆっくりと腰を上げた。
「じゃあ、部屋が見つかるまでウチにいれば?」
結局、六本木一丁目のビジネスホテルに泊まったサトコは、翌日親友の千晶と東急プラザ銀座内の『アポロ』でランチをしていた。シドニー発のモダンギリシャ料理が楽しめるレストランだ。
ここで千晶が思いがけない言葉をくれたのだった。
「うちの夫が、また4ヵ月の海外出張になったのよ。今度はブラジルなんだけど。部屋は余ってるし私も一人で寂しかったから、サトコが来てくれたら嬉しいな」
持つべきものは、余裕ある暮らしを送っている女友達だ。
千晶は出版社で雑誌編集をしている33歳。2年前に大手機器メーカー勤務の男性と結婚して恵比寿の2LDKに住んでいる。
旦那さんは度々、長期の海外出張が入るらしく、今回もちょうどその時期なのだそう。仕事を持ち帰ることも多い千晶が、仕事部屋にしている5畳の部屋で良ければ使って良いと言ってくれたのだ。
「しばらくシェアハウスに行こうかと思ってたんだけど、本当にいいの?!」
こうして、部屋が見つかるまでサトコは千晶の家に間借りすることが決まった。
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翌週、サトコは1週間ぶりに麻布十番を訪れた。彼の部屋に置いたままになっていた荷物を運び出すためだ。
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