Age,32 年収上がらなくて。 Vol.1

Age32,年収上がらなくて。:転職するする詐欺師?同期にディスられ転職を決意する男

高級スピーカーと無印のソファから見える、人生の縮図


店を出て今日子と別れ、家路に着いた。そこから目黒川沿いを5分ほど歩くと、我が家が見える。目黒区青葉台1丁目の7階建てマンション。家賃は15万8,000円だ。

新卒で大手広告代理店に就職して、10年経った。今は、自動車メーカー向けの営業をしている。年収は30歳で1,000万を超えた。

年収が1,000万を超えてテンションが上がったのは、ほんの一瞬だった。ここから賃金カーブは緩やかに上昇するだけで、そこからは熾烈な出世競争が待っている。40代、50代がひしめき合うこの会社に、ポストの空きはほとんどない。

そもそも、20代のうちに年収は900万に達してしまったのだ。ここから一気に上がるチャンスはもうないだろう。大企業における個人の成果への対価なんてたがが知れているし、上司からの評価なんて水ものだ。

家に着いて、グレーのスウェットに着替え、お気に入りの無印のソファにどさりと座った。

スピーカーからは大好きな星野源が流れている。25万円もするクリプトンのスピーカーに、2万円でお釣りが来た無印のビーズクッション。部屋のインテリアを見回すと、まさにこれが自分の人生の縮図のように思えた。

これからの人生もおそらく、タワマンの最上階に住んだり、外車を乗り回したりすることはないのだろう。別にきらびやかな生活を送りたい訳ではないが、でも何か俺ちっちぇな、と思った。

転職熱はこれまで3回。その理由は?


―転職するする詐欺。

翌朝、出社前に寄った会社近くのスタバで、今日子との会話を思い出した。

正確に言うと、“転職したい熱”が訪れたのは3回目だ。入社3年目の25歳、7年目の29歳、そして32歳の今。

入社3年目のときの理由は単純明快だ。「スポーツビジネスに携わりたい」と思って入った広告代理店。それでも配属先はマーケティングの部署で、「やりたいことと違う」と悩んだが、その翌年に異動になってその思いもうやむやになった。

入社8年目のときは、30歳を目前に漠然と「一生このまま終わるのか」という不安もあり、この時は転職サイトに登録したりもしたが、求人を見ると今より条件のいいところは皆無だった。

そして入社10年目。転職を考え始めたきっかけは、単純に言えば「嫉妬心」からだ。

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