それは、久しぶりに会社の先輩に会ったときのことだった。先輩は、27歳のときに外資系コンサルティング会社に転職し、その後独立。俺のマンションの近くに家を建てたと招かれ遊びに行ったが、たった3歳しか変わらない先輩の、その経済力に度肝を抜かれた。
「独立してから一時はどうなることかと思ったけど、何とかね。」
20畳ほどあるリビングには黒い革張りのソファ。一目で高級品と分かるそれには滑らかな光沢感があり、多分俺には一生縁がないものだと漠然と考えた。
あの日のことを思い返すと、今でも複雑な気持ちになる。
大企業の一兵卒として活躍する貴一が、ついに行動に出た!
俺は、どちらかと言えば器用で弁が立つし、ミスも少ない。見た目もひょろりとした体型に黒ぶち眼鏡で、「今ドキの草食系男子」とよく言われるが、そのちょっと冴えない感じが安心感を与えているのだと思う。上司にも「懐に入るのがうまい」と何度となく言われてきた。
それゆえ、大企業の一兵卒としてかなり重宝されているので、居心地は悪くない。帰属意識も、承認欲求もそれなりに満たされているのだと思う。
しかし、ある程度先が見えてしまう人生とは、これほどまでに面白くないものなのか。真新しいオフィスに感激して期待に胸いっぱいだった入社当時。
その興奮は、今や微塵も残っていない。
毎日同じ場所に行って同じ顔触れで飲んで、愚痴を言い合って。いたずらに時が過ぎていくばかりだ。
年初めのまっさらな手帳の1枚目に「転職!!」と力強く書き、転職サイトに2年ぶりにログインした。あのとき使ったエージェントは1社だけだったが、今回は何社か登録してみよう。
◆
数時間後にメールを確認すると、何通か「会ってみたい」という旨の連絡が来ていた。着信も何件か溜まっている。
俺は、その中から外資系企業向けの求人が多い「S&P」と日系の大手企業に強い「キャリアナビ」というエージェント、2社のコンサルタントと会うことに決めた。
―今年こそ、絶対転職してやる。
こうして、俺の長い転職物語が幕を開けた。
次週1.25水曜更新
ついに動き出した貴一。エージェントとの面談はどうなるのか?
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