2016.12.17
五反田ラバー Vol.1世間では、初デートの街を五反田にすると女の子から冷めた目で見られることもある。
たしかに、五反田はあまりスタイリッシュな街ではないかもしれない。しかし、なんとも味わい深い深みがある街であることも事実である。
五反田という街のディープさにすっかり虜になり、周囲へ五反田の良さを啓蒙し、“五反田ラバー”の布教活動に勤しむ男がいる。
雑誌編集者・健太、29歳。まずは彼が“五反田ラバー”となったきっかけの、5年前に時計の針を戻してみよう。
29歳、自称エリート編集者。五反田での日常
ライフスタイル誌の編集者として多忙な毎日を送る健太。
山梨出身。編集者としてはエリート街道をひた走っていると思っている。第一志望の出版社に入り、編集者としてのキャリアが華々しくスタートしたからだ。タレントやモデルと仕事をすることも多く、自分の仕事や地位には満足している。
今日も仕事を終えて、自宅のある五反田へ帰ってきた。時刻は深夜0時を回り、日付が変わった頃だ。
健太は自宅マンションがある西五反田5丁目とは反対の方向へ歩いた。駅から5分もかからない場所にある、東五反田の『よし鳥』に入り、顔馴染みのスタッフに挨拶すると「いらしてますよ」と言われた。店の奥に目をやると、健一が大きく手を上げた。
「はぁ~っ、うまい!」
健一と乾杯して、ビールをゴクゴク喉に流し込む。いつも頼むねぎまと、その他のつまみを吟味していると、健一が嬉々とした表情で報告してきた。
「一人増えそうだぞ」
「おお、まじかー。今度紹介してくれよ」
健太も満面の笑みで答える。五反田を愛し「五反田ラバー」を自称する二人。健一が言った「一人増えそう」というのは、五反田ラバーが増えそうという意味だ。二人は、五反田の啓蒙活動に励んでいるのだ。
最初に「五反田ラバー」と言い始めたのは健太だ。健太がなぜここまで五反田にハマったのか。その理由は5年前に遡る。
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