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  • 美人探偵・貴崎桜子の事件簿 Vol.5

    美人探偵・貴崎桜子の事件簿 :密かに開催されるVIPだけの食事会。そこへ届いた謎の手紙とは?


    磨き抜かれたグラスとカトラリーに見惚れていると、一人の男性が現れた。

    「こんばんは。お待ちしておりました」

    そう言って男は頭を下げる。どうやら先ほどインターホンで対応してくれたのは彼のようだ。

    「今夜はお招きいただきありがとうございます」

    桜子が美しい微笑を浮かべながら挨拶をしていると、奥から奥田が現れた。彼は最後に会ったときよりもやや痩せたように見えるが、顔色はよく以前のような卑屈な笑みも浮かべていない。

    「先日は大変なご迷惑をおかけしてしまいました。何のお詫びにもならないかもしれませんが、今日は存分に楽しんでください」

    そう言って深く頭を下げると、私たちを席へ案内してくれた。席に着くとすぐに「カッシェロ・デル・ディアブロ デビルズ・ブリュット」が運ばれ、私は桜子とグラスを重ねた。

    スパークリングワインを飲んでいると、他のゲストたちもぽつりぽつりと入ってきた。「VIPの集い」と聞いていた通り、入ってくる者はみな洗練された雰囲気を纏う者ばかりだ。

    男性は仕立ての良いスーツと上質な革靴を履き、堂々と威厳のある態度。女性は光沢のあるドレスから上品に肌を露出し、華美ではない華やかさがあった。

    「なんだか、すごい空間だね」

    桜子に小さな声で耳打ちすると、彼女は「そうかしら?」とでも言うように、僅かに首をすくめた。

    彼女にとっては、これも日常の一部なのかもしれない。私は桜子の謎の深さに、あらためて触れてしまったようだ。

    しばらくして会場が埋まると、奥田が一言挨拶し皆で乾杯した。どうやら、総勢20名程が集まったこの会は定期的に開催されているようで、ゲストにとっては社交の場として、ホストの奥田にとっては舌の肥えたVIPたちから、料理への率直な感想を聞く場となっているらしい。

    最初の料理が運ばれてから、およそ1時間半私と桜子も隣の上品な夫婦と会話しながら、食事とディアブロを存分に楽しませてもらった。


    デザートまで食べ終え、奥田が最後の挨拶をしようとみなの前に立った時、会場の奥からインターホンの音が聞こえた。その音を聞いた奥田は「おや?」という表情を浮かべたが、気にせず挨拶を述べる。

    そこへ最初に対応してくれた男が現れ、奥田の元に駆け寄ると彼に何かを耳打ちした。

    「なんだって?」

    奥田は怪訝な表情を浮かべ、桜子を見つめた。

    「どうかしました?」

    凛とした表情で桜子が奥田に聞くと、彼は咳払いをひとつしてこう言った。

    「実は今、バイク便が届きました。桜子さん宛ての手紙です。桜子さんが手配されましたか?」

    「いいえ、そんなもの手配していないし私が今日ここに居る事も、誰も知らないはずだけど……。いいわ、その手紙見せてくださる?」

    桜子は奥田から手紙を受け取ると、すぐに封を開いた。中からは一枚の便せんが取り出され、桜子は書いてある文字を読み上げた。

    「“蔵の鍵はもらった”。……蔵の鍵?何のことかしら。まさか奥田さん、また何か企んでいるの?」


    険しい表情で奥田を睨みつけるが、彼は慌てて言った。

    「そんな、とんでもありません!私は十分反省し、もうあんな馬鹿なことは二度としないと誓いました。信じてください」

    奥田の必死な様子から、これが彼の仕業でないことは理解できた。

    「もしかして、蔵というのはあのことかもしれません……」

    「奥田さん、思いたる場所があるなら聞かせてくださる?」

    「はい。実は隣のビルの地下室も借りており、そこをディアブロ専用の蔵として使用しております」

    彼の話を最後まで気かずに、桜子は立ち上がった。



    奥田と桜子と私の三人で、蔵の前に移動すると扉にはパスワード解除型の鍵が取り付けられ、謎が書かれた紙が添えてあった。

    難易度★★★★☆

    どうやら鍵を勝手に変えられたらしく、奥田も「どうして」と愕然としているが、対照的に桜子は動揺する事なく落ち着いている。

    「まるでディアブロの“悪魔の蔵”のようだわ」

    カッシェロ・デル・ディアブロにまつわる伝説を持ち出し、桜子は呟いた。

    「とにかく、また謎が書いてあるからまずはこれを解きましょう」

    そう言うと、私にいつものいたずらっぽい微笑を向けて続けたのだ。

    「さあ、今回も解いてみて?」

    ―やはりまた謎解きか……。

    私は少し落胆したものの、謎解きに自信がついてきたのも事実。

    ―よし、解いてやろうじゃないか。

    そんな意気込みさえ持ってしまったのだった。



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