2016.12.24
美人探偵・貴崎桜子の事件簿 Vol.5
磨き抜かれたグラスとカトラリーに見惚れていると、一人の男性が現れた。
「こんばんは。お待ちしておりました」
そう言って男は頭を下げる。どうやら先ほどインターホンで対応してくれたのは彼のようだ。
「今夜はお招きいただきありがとうございます」
桜子が美しい微笑を浮かべながら挨拶をしていると、奥から奥田が現れた。彼は最後に会ったときよりもやや痩せたように見えるが、顔色はよく以前のような卑屈な笑みも浮かべていない。
「先日は大変なご迷惑をおかけしてしまいました。何のお詫びにもならないかもしれませんが、今日は存分に楽しんでください」
そう言って深く頭を下げると、私たちを席へ案内してくれた。席に着くとすぐに「カッシェロ・デル・ディアブロ デビルズ・ブリュット」が運ばれ、私は桜子とグラスを重ねた。
スパークリングワインを飲んでいると、他のゲストたちもぽつりぽつりと入ってきた。「VIPの集い」と聞いていた通り、入ってくる者はみな洗練された雰囲気を纏う者ばかりだ。
男性は仕立ての良いスーツと上質な革靴を履き、堂々と威厳のある態度。女性は光沢のあるドレスから上品に肌を露出し、華美ではない華やかさがあった。
「なんだか、すごい空間だね」
桜子に小さな声で耳打ちすると、彼女は「そうかしら?」とでも言うように、僅かに首をすくめた。
彼女にとっては、これも日常の一部なのかもしれない。私は桜子の謎の深さに、あらためて触れてしまったようだ。
しばらくして会場が埋まると、奥田が一言挨拶し皆で乾杯した。どうやら、総勢20名程が集まったこの会は定期的に開催されているようで、ゲストにとっては社交の場として、ホストの奥田にとっては舌の肥えたVIPたちから、料理への率直な感想を聞く場となっているらしい。
最初の料理が運ばれてから、およそ1時間半私と桜子も隣の上品な夫婦と会話しながら、食事とディアブロを存分に楽しませてもらった。
デザートまで食べ終え、奥田が最後の挨拶をしようとみなの前に立った時、会場の奥からインターホンの音が聞こえた。その音を聞いた奥田は「おや?」という表情を浮かべたが、気にせず挨拶を述べる。
そこへ最初に対応してくれた男が現れ、奥田の元に駆け寄ると彼に何かを耳打ちした。
「なんだって?」
奥田は怪訝な表情を浮かべ、桜子を見つめた。
「どうかしました?」
凛とした表情で桜子が奥田に聞くと、彼は咳払いをひとつしてこう言った。
「実は今、バイク便が届きました。桜子さん宛ての手紙です。桜子さんが手配されましたか?」
「いいえ、そんなもの手配していないし私が今日ここに居る事も、誰も知らないはずだけど……。いいわ、その手紙見せてくださる?」
桜子は奥田から手紙を受け取ると、すぐに封を開いた。中からは一枚の便せんが取り出され、桜子は書いてある文字を読み上げた。
「“蔵の鍵はもらった”。……蔵の鍵?何のことかしら。まさか奥田さん、また何か企んでいるの?」
険しい表情で奥田を睨みつけるが、彼は慌てて言った。
「そんな、とんでもありません!私は十分反省し、もうあんな馬鹿なことは二度としないと誓いました。信じてください」
奥田の必死な様子から、これが彼の仕業でないことは理解できた。
「もしかして、蔵というのはあのことかもしれません……」
「奥田さん、思いたる場所があるなら聞かせてくださる?」
「はい。実は隣のビルの地下室も借りており、そこをディアブロ専用の蔵として使用しております」
彼の話を最後まで気かずに、桜子は立ち上がった。
◆
奥田と桜子と私の三人で、蔵の前に移動すると扉にはパスワード解除型の鍵が取り付けられ、謎が書かれた紙が添えてあった。
難易度★★★★☆
どうやら鍵を勝手に変えられたらしく、奥田も「どうして」と愕然としているが、対照的に桜子は動揺する事なく落ち着いている。
「まるでディアブロの“悪魔の蔵”のようだわ」
カッシェロ・デル・ディアブロにまつわる伝説を持ち出し、桜子は呟いた。
「とにかく、また謎が書いてあるからまずはこれを解きましょう」
そう言うと、私にいつものいたずらっぽい微笑を向けて続けたのだ。
「さあ、今回も解いてみて?」
―やはりまた謎解きか……。
私は少し落胆したものの、謎解きに自信がついてきたのも事実。
―よし、解いてやろうじゃないか。
そんな意気込みさえ持ってしまったのだった。
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