まさか亮介の耳に入ると思っていなかった美加は、何と言えばわかってもらえるかを必死で考えた。
だが変に嘘をつくよりも仕方なく行ったことを分かってもらおうと思い、正直に話す事にした。
「ごめんなさい!亮介と付き合う前に約束してて、人数足りないからどうしてもって言われて断れなかったの。でも本当にごめんなさい……!」
心から反省し、何度も謝った。だが亮介はずっと怒ったまま、まともに口もきいてくれない。
どうやら、お食事会にいたメンバー内に亮介の大学の同期がおり、「お前の彼女、お食事会にいたよ」と報告されたらしい。
美加は医者の世界の狭さを甘くみていた自分を心から呪った。
亮介とゆっくり話すため、中目黒に新しくオープンしたカフェに入った。いつもであればインスタ用の写真を真っ先に撮るのだが、さすがに今日はそんなこともせず、とにかく謝った。
「ごめん、ちょっと考えさせて。だからしばらく距離おきたい」
亮介がやっと口を開いて、出てきた言葉はそれだった。どんな理由であれ、自分がいながらそんな場に行った事が、どうしても受け入れられないと言うのだ。
「せめて、事前に正直に言ってほしかったよ」
悲しそうな顔の亮介にそう言われて、美加の心は痛んだ。
―本当に、あんなお食事会なんて、何としてでも断れば良かった……。
美加の中で、大きな後悔が募った。だが、今の美加にはこれ以上どうする事も出来ずに、この日はコーヒー1杯を飲んで、そのまま別れた。
◆
亮介と連絡を取れない日が続いたある日、友達の美咲から結婚のニュースが飛び込んできた。美咲は外資系ジュエリ―ブランドでPRとして働いている、大学時代からの友人だ。
少し前に代理店の彼氏にフラれて落ち込んでいたことは知っていたが、いつの間にか素敵な男性と出会って短期間で結婚まで決めたという。
久しぶりに美咲に会うと結婚が決まった女の余裕からか、彼女は以前の数倍輝いて見えた。肌は艶めき髪には光沢があり、指の先まで輝いて見えた。
「結婚が決まった女って、全身で幸せオーラ出すよね」
皮肉でもなんでもなく、素直な気持ちで美加は言った。