的を絞り、虎視眈々と結婚を狙う娘たち
美加は学生の頃から結婚相手は医者に的を絞り、食事会に奔走している。医者にこだわるのは、単純に不自由のない暮らしを送りたいからだ。結婚したら優雅な専業主婦になりたい。自分が働かずとも普通よりも良い暮らしを送るためには、医者が最適だと思っているのだ。
その努力が実ってか、最近は医者との恋愛が続いている。現在付き合っている亮介は大学病院に勤務する内科医。その前のヒロキも別の大学病院の内科医だった。
亮介とは付き合い始めて1カ月半になり、指輪も先週もらった。
「いつかホンモノにしようね」
そう言って買ってくれた。
“ホンモノ”というのはもちろん婚約指輪。すなわち亮介も美加との結婚を意識しているということだ。
だが、指輪をもらったからといって安心はできない。なぜなら元カレ・ヒロキとさらにその前に付き合っていた彼からも、指輪はもらうものの、“ホンモノ”にはたどり着けなかったという、苦い過去があるからだ。
これまでは指輪をもらうと、少しだけ気を抜いてしまう自分がいた。指輪をもらったからには、ほぼ結婚が決まったようなものと思ってしまい、わがままが増えていたのだ。食事だけでなく旅行代金も全て払ってもらって当たり前、とまで思うようになっていた。
しかも、美加は彼に連れて行ってもらった場所でも、インスタでは彼の存在は微塵も感じさせないようにしている。
銀座の『六雁』でも、軽井沢の高級旅館でも、美加のインスタの中では彼の存在はないものとされているのだ。
これまでそのことを責めてくるような相手はいなかったが、内心では快く思わってない彼もいただろうことは察しがつく。
「もうね、今回こそ絶対ホンモノにするから!」
泉に宣言して、美加はワインを一口ごくりと飲んだ。「お手並み拝見」と言いたそうな目を向けてくる泉に、美加は宣言するように言うのだった。
「今までの自分とは決別しようと思って、厄落としも兼ねて最近身の周りを一新してるの。着ない洋服は捨てて、化粧品も香水もシャンプーも変えた」
「へぇ。指輪も3本目になると、気合いの入れ方がすごいのね」
またしても泉に皮肉を言われ、美加が「ひどーい」と言って二人で笑った。
「で、今何使ってるの?」
「洋服以外は海外セレブが愛用してるやつに変えた。シャンプーなんてモデルのテイラー・ヒルが使ってるヘアレシピのハニー アプリコットだよ。意外とお手頃で良いから、泉も使えば?」
美加が得意気に言うと、泉は早速スマホを取り出してヘアレシピを調べ始めた。