大輔が静かに聞くと、しばらくの沈黙が流れた。その沈黙が答えであると確信し、大輔はやるせない気持ちに襲われた。
「どうして……?」
震える声で聞いた。有田は黙ったまま遠くを見たり、天井を見上げたり落ち着かない様子だ。
「そんなにハッキリ聞いてくるってことは、証拠でも掴んでるのか?」
有田は大輔の顔を睨むように見つめて言った。
「ただの状況証拠しかありません。でもシステムの担当者に調べてもらえば完全な証拠も取れると思いますよ?」
大輔もひるむことなく、有田を睨んでそう返した。すると彼は、ふっと身体の力を抜いてあきらめたように笑った。
「そうだよな。すぐにわかるよな。」
今度は自分のつま先辺りを見ながら呟くように言って、更に続けた。
「俺だよ。お前の言う通り俺が改ざんした。マネージャーに言ってもらって構わないから。覚悟はしてたんだ。……じゃあ、もういいよな?」
力なく言って椅子から立ち上がろうとする有田を、大輔は右手で制止した。
「待ってください。どうしてそんなことしたんですか?」
「どうしてって?単純に気に食わなかったんだよ。お前はいつも俺が欲しいものを簡単に手に入れるよな。世渡り上手で大した努力もせず美味しいとこだけさらりと持ってく。」
「そんな……僕だって必死に努力してます。それに有田さん、僕のこと応援してくれてましたよね。あれは嘘だったんですか?」
「……そうだな、今でも応援してるよ。だがあの時、気付けばデータを改ざんしてた。応援してるっていうのは嫌みなんかじゃなくて、これも俺の本心だからな。」
目を伏せて、悲しみと諦めと怒り、全ての負の感情を混ぜたような表情を浮かべて、有田は言った。
―じゃあ、どうして……?
言おうとしたが、有田はもう席を立って歩き始めてしまった。大輔を応援していた気持ちは有田の本心。だがイベントが失敗するよう仕組んだのも有田……。
有田の言う事が本当なら、なぜそんな相反する行動を取ったのか。大輔はわからないまま、また頭を悩ませる日々が始まってしまった。
大輔はひとまず、有田の本心が分かるまで、マネージャーに報告するのは待つことにした。