欲望が渦巻き、誰もが成功を願う街、東京。
この大都会に長く住めば住むほど、大切な何かを失っていく気がしないでもない。
独特の東京の空気に飲まれて心の純粋さを失い、幼い頃に描いていた夢を失い、そして本来の自分らしさも徐々に消え失せていく。
長野県から上京してきた美穂と慎吾。大都会に揉まれながら、東京に染まっていく二人は都会の片隅でイノセントさを失わずにいられるのだろうか?
東京に染まっていく上京女子
あの夜に見た、東京タワーが忘れられない。
燃えるように真っ赤にライトアップされた東京タワーを桜田通りの交差点越しに見た時、ついに東京に来れた自分を褒めてあげたくなった。
東京なら、どんな夢でも叶う気がした。
◆
「美穂、今日のお食事会の相手は医者だよ?そんな田舎者丸出しの格好で行くわけ?」
貿易会社の同期、マリエからゲキが飛ぶ。実家がある長野県の中で一番の都市、松本のデパートで上京前に母が買ってくれた白いワンピース。お気に入りだったのに、マリエからダサいと一喝され母にも申し訳ない気持ちになる。
「え、これダメかな...結構気に入ってるんだけど」
同期のマリエは成城出身で、学生時代から読者モデルとして活動していた。何度か雑誌で見かけたこともあるほど、綺麗で華やかだった。
「も〜美穂、いい加減に東京ファッション覚えてよ。そんなんじゃいい人ゲットできないよ!そして可愛い友達が多いって言ってる、私の顔も潰さないで」
会社のお手洗いでディオールのリップグロスを塗りながら、マリエは“自分は可愛い”と確認するかのように、鏡の中の自分に向かってニッコリと微笑んだ。
それを見て、レブロンのリップグロスを慌てて鞄の中に隠す。同じ同期でも、持ち物も生活レベルも全てが違った。マリエはいつもハイブランド物を持っていた。
「今日の医者、タクシー代出るかなぁ。医者って意外にケチだからなぁ」
地元・長野でお医者さんは大エースだった。しかし東京では(特にマリエの中では)あまりその肩書きに惹かれないらしい。
「マリエって、本当凄いよね」
「ふふ、ありがとう。自称生まれつきの勝ち組だから。ほら、美穂行くよ!」
丸の内は賑わっていた。前を歩くマリエがキラキラと輝いて見えた。
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