SPECIAL TALK Vol.18

~テクノロジーへの興奮が、新しいビジネスを生み出す~

金丸恭文氏 フューチャーアーキテクト代表取締役会長CEO

大阪府生まれ、鹿児島県育ち。神戸大学工学部卒業。1989年起業、代表取締役就任。産業競争力会議議員、規制改革会議委員、内閣官房IT 本部本部員、経済同友会副代表幹事、NIRA代表理事を務める。

観察し、実際に手を動かすこと。あえて「考えない」理由

金丸:谷口社長と話していると、夢が膨らみます。アイデアの源はどこにあるのですか?

谷口:それはやはり、最先端のテクノロジーが好きだということでしょうか。最新の情報を手に入れるために、第一線の研究者に直接会うことを心掛けています。単にインターネットから情報を得るのではなく、最先端の技術や知識に触れることで、アイデアの引き出しを増やしています。もうひとつは、観察することです。周りを見て何か困っていることはないか、問題はないかを常に探しています。たとえば電車に乗っていても、私は絶対にスマホはいじらないんですよ。みんながスマホと向き合っている間、周りの乗客をじっくり観察しています。

金丸:特に若い人たちはなんでもインターネットで済ませてしまう傾向にありますよね。でも、それでは道は開けません。

谷口:ビジネスには、世の中のこういった部分を変えたいとか、もっと便利にしたいという目的が必要です。でも目的というのは、自分が何かに困ったり失敗したりという経験がないと見つけられないと思うんです。先日ある経営者が、インタビューで「経営者に共通する課題は、ビジネスの目的を見つけられないことだ」と答えていました。それは偉くなればなるほど現場に出る機会が減り、レポートで判断することが多くなるからだと。そんな現場を知らない状況では、目的が見つからないのは当然です。

金丸:最近の若者については、どのようにお考えですか?

谷口:たまに大学で講演するのですが、最近の学生は、すごく真面目で草食系ですよね。ノートもびっしり取っていて感心します。私の学生の頃なんて、あほなこと書いて先生をからかっていましたけど(笑)。そんな中で、すごく面白い大学を見つけたんです。

金丸:どこの大学ですか?

谷口:東京藝術大学です。あそこは野生の匂いがしますよ。日本の古い伝統が残っていますし、世間から隔絶されているせいなのか、人間本来の欲望をむき出しに生きている学生が多いように感じました。実はこの4月から、東京藝術大学の大学院の博士後期課程に入学することにしたんです。

金丸:ええっ、そうなんですか(笑)。

谷口:野性味溢れる学生たちと一緒に学んだら、面白いだろうなと思って。それに私は、iPhoneのような世界をガラリと変えるプロダクトを、この日本から生み出したいんです。そのためには、彼らのような枠に収まらない人間が必要だと。藝大の教授にも聞いてみたのですが、「イノベーションの決め手は、観察だ」とおっしゃっていました。大事なのはデッサンだと。

金丸:観察することから、イノベーションが生まれると?

谷口:はい。アメリカのデザイン・コンサルティング会社で、Appleの初代のマウスを手掛けた「IDEO」という会社があるのですが、そこの共同経営者のトム・ケリー氏にいただいた本にも、同じことが書いてありました。「いつでもどこでも観察して、考えすぎず、手を動かしてプロトタイプを作り、試してみろ」と。頭で考えるだけでは、やはりダメなのです。

金丸:その点、谷口社長は割とすぐ行動に移されていますよね。

谷口:実は一度考えはじめると、冷静に分析してしまって、実行に移す前に「ダメかもしれない」と判断する“まともな自分”が顔を出してくるんです。だから、敢えてあまり考えず、まず行動するようにしています。

金丸:観察、そして即行動。ものを作る人間にとって、とても重要なことです。

谷口:ビジネスなので手堅くいくことは大事ですが、やはり勝負を忘れてはいけません。保守的になって挑戦しなくなると、ビジネス自体も小さく収まってしまう。それに失敗を通じて学ぶことも多いですからね。

金丸:ものづくりの考え方に、作り手、つまり企業側がいいと思うものを作る「プロダクトアウト」と、顧客が求めるものを作る「マーケットイン」があります。昨今は「マーケットインが大事だ」という人が多いのですが、私はマーケットインからイノベーションは起きない、と思っています。iPhoneも、ジョブズがユーザーに聞いて回ってできたものじゃない。市場調査などしていたら、あんな革新的な製品は生まれていません。

谷口:そうですよね。うちの会社でもロボットカーを手掛けた時に似たようなことがありました。実車の10分の1サイズのロボットカーのニーズがあるかどうか、大手自動車メーカーの方にヒアリングをしたんです。そうしたら9割が「必要ない」という回答で、「欲しい」と回答したのは1割だけでした。中には「これに100万円を出すなら、軽自動車を買う」という厳しい意見もありました。でも実際に発売してみると、飛ぶように売れました。もし9割の声に耳を傾けすぎていたら、この製品は世に出ないままだったと思います。

オフィスの隣は広大な植物園。そこで構想するロボットの未来

金丸:そんなにアクティブに活動されていると、休む暇がないのでは?

谷口:確かに忙しくしていますが、ちゃんと休んでいますよ。それに働いていても気分がいいんです。小石川にある本社の窓を開けると、植物園が一望に見渡せます。こんな都心にもかかわらず、東京ドーム4個分くらいの広さがあって、マイナスイオンがたくさん出ているのを感じます。とてもリラックスできて、発想も湧いてくるんです。

金丸:羨ましいですね。丸の内や大手町だとそうはいきません。では最後に、今後の夢をお聞かせください。

谷口:今力を入れているのは、「ロボットタクシー」の実用化です。スマホのアプリで無人のタクシーを呼び出し、目的地まで自動運転で連れていってもらうというサービスで、昨年、ネットサービス大手のディー・エヌ・エーと合弁会社「ロボットタクシー株式会社」を設立しました。特にタクシー不足に悩む地方において、運転ができないお年寄りが自由に移動できる手段として実用化を目指しています。

金丸:過疎化が進む地域では、移動手段の確保は深刻な問題ですからね。

谷口:2016年2月から神奈川県で日本初の住民を乗せてショッピングセンターに送迎をする実証実験を行っています。現時点ではまだ法律の問題があって、今は無人ではなく運転手が同乗しているんですよ。無人運転に関するルール作りや法整備が進み、2020年の東京オリンピックでは、自動運転タクシーが街中を走り回っているようにしたいです。

金丸:それは楽しみですね。私も利用したいです。

谷口:もうひとつは、「キャリロ」という物流支援ロボットを使って、物流にイノベーションを起こしたいと思っています。「キャリロ」はロボット技術を応用した台車で、負荷を軽減するための移動アシストや、作業員が先導する台車を自動で追いかける「かるがもモード」、指定エリア内を自由に移動する「自律移動機能」などを搭載しています。物流業界はドライバー不足が深刻で、とりわけ再配達にかかる手間とコストが大きな問題となっています。その解決策として「キャリロ」を使った仕組みを作りたいんです。たとえば、スマホで荷物の受取日時と場所を指定してもらい、キャリロが自動で荷物を運べば、着実に届けられるので再配達の手間が省けます。女性の中には、ロボットのほうが安心して受け取れる、という方も少なくないかもしれません。

金丸:実用化されれば、物流がガラリと変わりますね。ロボットと共存する社会が、すぐそこにあるのだと実感します。ぜひ未来を創っていっていただきたい。今日は本当にありがとうございました。

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