否が応でも思い出す元彼の言葉…。
待ち合わせ場所は、恵比寿のウェスティンホテルだった。事前に好きなものを聞かれ、「鉄板焼き」と答えたら『鉄板焼 恵比寿』を予約してくれていた。
以前、「鉄板焼きが好き」と言ったら元彼・シンジはすごく嫌そうな顔をした。
「素材が良くなきゃ旨くない鉄板焼きが好きなんて、金がかかる女だな。」
そう言われればそうだな、と妙に納得してしまったのだが、今思うとシンジは本当に偏屈で嫌な男だった。
それでもこんな風に思い出すなんて、何だかんだ吹っ切れてないのかも…。複雑な想いを抱きつつ、エレベーターに乗った。
今日は、独り身になって初めてのデートだ。しかもずっと憧れていた人と。気を取り直して修二の元へ向かった。
初デートで彼の家に?下心を感じない誘い文句とは
修二とのデートは、完璧だった。仕事の話が主だったが、彼の仕事に対する熱い想いを聞き、ますます好きになってしまった。
修二は今年で42歳。早稲田大学を卒業後、大手メガバンクに就職。しかし編集者への夢が諦めず、2年足らずで転職。そこから男性ファッション誌で編集の仕事を始める。時計好きが高じて時計特集を担当するようになり、徐々に広告の仕事が増え、広告プランナーとしての独立を決心したらしい。
「僕が思う時計の魅力はさ。」
チャーミングな垂れ目の目尻をさらに下げ、その優しい雰囲気からは想像できないような低い声で言う。
「時を刻む時計には、その人なりのストーリーが隠されているんだよね。」
-どうしよう、落ちるかも。
心の中でつぶやいた。
デザートとコーヒーをもらい、最高だったデートも終わりに近づく。もう少し一緒にいたい気持ちもあるが、初めてのデートなのでここで切り上げるのもアリだな、と考えを巡らせる。
そんなことを考えながらゆっくりコーヒーを飲んでいると、修二が時計のコレクションの話をし始めた。彼が持つ時計たちは、家一軒分相当の値段になるらしい。
見てみたいです、と合いの手を入れると、彼は目を輝かせながら見に来る?と聞いてきた。その目に一点の曇りもない。
少し警戒しながらも家一軒分の時計を見たいという好奇心が勝り、タクシーで中目黒にある彼の家に向かった。
この記事へのコメント
でも意外にそういう人って仕事できるんですよね
「俺ってスタイリッシュ!俺のことデル・ピエロって呼んで!」の発言は若かった私には余りにも衝撃的過ぎました。