2015.07.21
SPECIAL TALK Vol.10ルーツは6.5坪40年で140店舗に成長
金丸:設楽社長が、これは事業としていけるなと確信したのは、いつ頃だったのでしょうか?
設楽:電通に入って7年目ぐらいでしょうか。
金丸:会社を辞める前に、いけそうだと踏んだわけですね。
設楽:そうです。ちょうど辞める前には小さい店があと3店舗がオープンしていました。
金丸:2店舗目は渋谷ですよね。
設楽:はい、2店舗目も同じく6.5坪でした。
金丸:両方合わせて13坪。それでいけると確信されたわけですから、読者は勇気が湧いてきますね。私はいつも若い人に、「ルーツを見なさい」とアドバイスしています。ルーツを探れば、その企業が何を大切にしているのか、どのような理念を持っているのかがわかるからです。
設楽:そうですね。最初のお店を作ったときの予算は50万円。ほとんど自分たちで手作りして、難しいところだけ大工さんにやってもらいました。金丸さんも同じようなところからのスタートですよね?
金丸:私もお金がなくて、知り合いの会社から机をひとつ借りてのスタートでした。ところで、地方の最初の店舗はどこに出店されたのですか?
設楽:熊本です。
金丸:それは意外ですね。どういった理由からでしょうか? 九州出身として、非常に気になります(笑)。
設楽:普通、東京の次は大阪とか名古屋、福岡ですよね。熊本にした理由は単純で、うちのことをわかっていて、やりたいと手を挙げてくれた人がいたからです。だからやっていただいた。ただ、それだけです。
金丸:マーケティングの結果ではないのですね。それは面白い。私も、ビジネススクールに行くより旅に出ろ、という主義ですから非常に共感できます。
設楽:もちろんマーケティングも大切ですが、実績がないところに道を作るには、マーケティングだけじゃダメなんです。なぜなら、私たちがいるファッション業界は非常に浮き沈みが激しく、何万軒ものお店が凌ぎを削っています。モードを取り入れたり、リーズナブルであったりと、目指す方向はそれぞれ違いますが、取り合うパイは同じです。その中にも必ず狙えるゾーンはあるので、大ヒット商品の二番煎じ、三番煎じでおいしいところを持っていくことも可能です。しかし、真似するだけでは、事業を継続させることが本当に難しい。お客様にすぐ飽きられてしまいます。
金丸:企業の最大のリスクは、陳腐化することだと思います。ほかと何かが違う個性がなければ、差別化は図れません。
設楽:お店が陳腐化することをいかに防ぐか。私も小さい失敗を繰り返しながら学んでいきました。
数字に表れたときには引く。陳腐化を防ぐビームスの商品作り
金丸:ちなみに、いままで経営危機はあったのでしょうか?
設楽:基本的には右肩上がりで来ることができましたが、大量の在庫を抱えて窮地に立たされたことが、何度かありました。面白いことに、こういう危機は必ずブームの後に起こるんですね。その中で、どうにか乗り越えてこられたのは、メンズが中心だったからだと言えます。ビームスの売上高に占める割合は、メンズが6割、レディースとその他が合わせて4割です。メンズの場合、緩やかにブームが来て、緩やかに下がっていきますが、レディースは一気にブームがやってきます。当たれば大きい分、外した場合の打撃も大きい。
金丸:メンズとレディースで、売れ方がそんなに違うのですね。
設楽:違いますね。実は、POSのデータが跳ね上がったときは要注意なんです。その商品からそろそろ引かないといけません。すごく売れる反面、ほかの店も同じような商品を出してきますから。そうなると一般的なマスのお客様が、ワーッと殺到する一方で、流行に敏感なインフルエンサー層の方は「まだこんなことやっているのか」と去っていく。気づいたら、感度の高いお客様から見放されてしまっていた、という状況だけは避けたいと思っています。つまり、商品は“コク”と“キレ”を前提に選ぶことが大切だと考えています。モノの質へのこだわりが“コク”。職人気質であったり、ディテールの細かさ、伝統を重んじたプロダクトなどだったり。その逆として、トレンドの要素を孕んだもので、いま面白いものが“キレ”。これらをバランスよく配置することで、顧客の皆様にビームスの存在を認知していただくのです。そして、商品が爆発的に売れた際には、引き際の見極めが、非常に重要です。
金丸:いまやブランドも寡占状態ですからね。
設楽:1989年頃に、シブカジのブームがありました。紺ブレにデニムにTシャツというスタイルです。渋谷じゅうにシブカジの若者が溢れ、紺ブレが飛ぶように売れました。うちもそうですが、どのお店も倍々ゲームで製造し、そして、パタッとブームが止まりました。ここで引かなかった企業は、のちに大きな在庫を抱え、結果的に倒産に追い込まれました。そんな会社をいくつも見てきたんです。このとき、POSのデータから引き際を見極めることの大切さを、痛感しましたね。
金丸:データのほかに参考にされていることはあるのでしょうか?
設楽:流行に敏感なお客様の定点観測を重要視しています。
金丸:なるほど。私も東京駅の丸ビルの店舗をよく利用させていただいています。店のディスプレイを見て、いまのトレンドを掴むようにしています。
設楽:ありがとうございます。
金丸:世界から商品を厳選されていて、店舗によって、少しずつテイストが違うのも面白いですよね。これはどのような狙いがあるのでしょうか?
設楽:ビームスの特徴は、まさにそこです。いま全国に約140店舗あるのですが、それぞれが少しずつ違っていて、お店ごとに個性があるんです。店舗数だけをみると、うちもチェーンストアと言えます。チェーンストア理論というのは、店舗運営を効率的に行うために、同じフォーマットで多店舗を展開し、利益につなげるということ。しかし、うちの場合は、その街や地域に合わせて、手作りに近い店作りを行っている。だから同じ洋服でも、渋谷と原宿と銀座とでは、コーディネートがまったく異なります。店の内装もすべて違います。一店舗ずつ違う作りにすることは、非効率的です。でも各店が商品選びやディスプレイにこだわり、それぞれが異なるコーディネートをお客様に提案することで、ビームス全体が陳腐化するのを防いでいます。
金丸:確かにビームスの新しいお店ができると聞くと、今度はどんな店なのだろうとワクワクします。
設楽:たとえば、「今度仙台に100坪の店を出店する」と発表すると、「次はどんなお店を出すんですか?」と言っていただくことがあります。そう言われているうちは、大丈夫だなと思っています。お客様に期待を感じてもらっている証拠ですからね。
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