SPECIAL TALK Vol.10

~夢は6.5坪から始まった~

金丸恭文氏 フューチャーアーキテクト代表取締役会長兼CEO

大阪府生まれ、鹿児島県育ち。神戸大学工学部卒業。1989年起業、代表取締役就任。産業競争力会議議員、規制改革会議委員、内閣官房IT本部 本部員、経済同友会副代表幹事、NIRA代表理事を務める。

人々にハッピーな体験をこの時代のビームスの価値とは

金丸:創業時に比べると、セレクトショップの在り方も大きく変わってきていると思います。社会情勢やインターネットの存在なども影響していると考えられますが、いまはどのようなお店作りをされているのですか?

設楽:昔は私たちがセレクトして見せることで、お客様に価値を提供することができました。しかし、いまは情報が溢れすぎていて、何が正しいのかがわからない状況です。セレクトショップの役割も、以前は見たことのない商品を取り寄せて見せることでしたが、いまは逆に、セグメントとキュレーションをすることではないかと考えています。

金丸:おっしゃるように、いまはキュレーションの時代ですね。セレクトショップという概念を作ってきた設楽社長だからこそ、役割の変遷を強く感じていらっしゃるのでしょう。ところで、現在の商品構成は、どのような割合ですか?

設楽:セクションによって違いますが、半分はバイイングの商品で、半分がオリジナルのプライベートブランド(PB)です。

金丸:ということは、社内にデザイナーや企画する人がいらっしゃるのですね。

設楽:製造は世界各国の工場を使っており、自前の工場は持っていません。Appleと同じ製造モデルです。ただし、うちの場合、デザイナーはいますが、PBでまったく新しい商品を作っているわけではありません。デザイナーには2種類のタイプがあります。一つはクリエーション、いわゆるアーティストタイプ。たとえばコム・デ・ギャルソンの川久保玲さんや三宅一生さんのような、今まで存在しなかったものを作り上げる人。もう一つは、アレンジャータイプ。ラルフローレンやアルマーニなど、すでに存在するものを自分なりのセンスでアレンジする人。ビームスはどちらかというと、アレンジャー。かつてあった名品を、素材を替えて現代風に再現したり、高額すぎて一般の人には手に入らないものを、手に届く商品として再現したり。これまでにも、イタリア製のミリタリーの復刻版を、オリジナルで作ったりしています。

金丸:お客様を驚かせよう、喜ばせようという強い気持ちを感じますね。

設楽:まさにそういう気持ちでやっています。コンセプトは、ハッピーライフソリューションカンパニーです。

金丸:アメリカンライフから、ハッピーライフへと変わっていったわけですね。

設楽:最近はもっと短く言えないかなと考えています。「ハッピーラボ ビームス」のような。というのも、洋服というのは極論、すでにみな持っているものであり、わざわざ買い足す必要のないものだと思うんです。では、何のために買うのか? その答えは、買う行為そのものや、袖を通したときの喜び、人にプレゼントするときのワクワクを感じてもらうためだと思います。ビームスで買うことによって、ハッピーになってもらうことが目的であり、そうした体験を売っているのです。お客様に“体験を買ってもらう”というコンセプトを、今後は当社の基本に据えようと考えています。実はいまファッションだけでなく、車や家電など異業種とのコラボもいろいろやらせていただいていますが、その根底には、買い物という体験を通して、ハッピーになってもらいたいという想いがあるのです。

狙うポジションは“外せないお店”ビームスが勝ち続けた理由

金丸:最後にビームスはこの先、どこを目指していくのでしょうか?

設楽:スタッフには、ディズニーランドよりもアップルストアよりも行きたい場所か、ずっといたい場所を目指せ、と伝えています。なんとなく行きたい、なんとなくいたいと思うのは、そこにテクニックだけではない何かがある、という証拠です。ビームスは来年で創業40年を迎えます。これだけ旬に凌駕されるファッションの世界で、今後も生き残っていくためには、お客様にとって「やっぱり外せないよね」という位置にい続けることが大切です。私は、ブランディングは連想ゲームだと思っています。たとえば5人いて、「車といえば?」と質問したとします。1人目が「トヨタ」、2人目が「日産」と答えていき、1周したときに名前が挙がらなければ、意味がありません。お客様が原宿や渋谷に行って、今日は5軒のお店を巡ろうと考える。そのうち1、2、3軒は話題のお店や新しいお店でしょう。私はそこと勝負するのではなく、4番目か5番目に必ず入る位置づけでありたいのです。「やっぱりビームスは外せないよね」と言われたい。または、通の方にとって「やっぱり、たまには見に来ないとマズイよね」というポジションでありたい。そうじゃないと、すぐにその他大勢の存在になってしまいます。40年近くこの位置にいられたのは、奇跡に近いことですが、今後もこの位置をしっかりキープしたいと思っています。

金丸:競争の激しい業界において、なぜビームスが最前線を走り続けてこられたのか、その理由を垣間見た気がします。はじまりは6.5坪から。そこから、いまの規模にまで成長してこられた。まさに若者に夢を与える話です。本日はありがとうございました。

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