2015.03.21
SPECIAL TALK Vol.6日本の教育への挑戦。ISAKの存在意義とは
金丸 昨年8月にインターナショナルスクール・オブ・アジア軽井沢が開校しました。どのような学校なのでしょうか?
小林:少人数制の全寮制インターナショナルスクールで、対象は高校1年から3年生。現在、5倍くらいの倍率の中から、1期生の49名が在籍しています。今、UWC加盟の1次審査が通ったところで、UWCのホームページに私たちがJAPANの候補校として出ているんですね。教師もUWCの学校で教えたいという思いが強く、今年は8名の教員募集に対して、世界中から数百名の応募がありました。
金丸:なぜ軽井沢という地を選ばれたのですか?
小林:コンペティターは、国内でなく海外の香港やシンガポールのインターナショナルスクールです。彼らにはなくて、私たちに出せるバリューを考えたとき、思ったのは、自然が豊かで、雪があるということ。森や雪があるというのは、アジア人にとって憧憬の的なんですよ。そして、国際空港からある程度近いことですね。
金丸:まさに今、スタートしたばかりですが、手応えはいかがですか?
小林:やはり、生徒にとって新設高校を受験することは、そう簡単な話ではありません。それでもISAKを選んでくれた生徒の皆さんは、本当にリスクテイカーだと思います。そして、学校のミッションを理解し、それを自分達で実現しようという気持ちを持つ人が集まってくれています。すごく印象的だったのは、初日に親御さんたちを集めて、小さな入学式をしたときのことです。質疑応答になり、当然、「あれはどうですか? これはどうですか?」という質問がくるだろうと身構えていたら、最初の質問が「What can we do for the school to realize the mission and the vision?」(学校のミッションやビジョンのために私たち親ができることは何か?)という質問だったのです。こういったマインドの方々が集まっているのだと、とてもうれしくなりました。
金丸:日本人は何名ぐらいいるのですか?
小林:現在、日本人は3割ほど。そして、残りは海外からです。第1期生は世界21カ国・地域から応募がありました。ほとんどがソーシャルメディアと国内外のメディア、そして口コミで存在を知ってくださったようです。
金丸:先ほど、他国のインターナショナルスクールと比較してのバリューの話をされていました。逆に国内の学校との違い、差別化があるとすれば、どのようなことですか?
小林:国際的に通用する人間を育てるためのキーワードは3つあります。ひとつは「多様性」。それから問題解決能力ではなく「問題設定能力」。そして、「リスクテイク」です。この3つは日本の学校と最も違いが出るところだと考えています。「多様性」とは、国籍がたくさんあればいい、ということではありません。現代社会というのは、社会的な経済格差や宗教観、文化観、歴史観の違いをもった人たちがごっちゃ混ぜになったものです。だから、その縮図をこの学校につくろうとしています。そして、「問題設定能力」ですが、ただ与えられた問題を解ければいいという時代は終わりました。これからは、自分で次に何を生み出せるのかが重要です。最後に「リスクテイク」。これからの時代は、失敗を恐れず、困難を乗り越えられる“挫折力”が求められます。叩かれても、叩かれても、這い上がってくるような強い精神力がないと何も成し遂げられません。いかに多様性と問題設定能力があっても、リスクを取らない人は何もできないと思うのです。
金丸:しかし、日本でこれらをやり遂げるのは非常に難しいことでもありますよね。
小林:そうですね。でも子どもたちが直面する社会というのは、実際そういうものですよね。好もうと好まざろうと、目の前にあるわけですから。それに対して教育の現場がどう対応してくのかを考えると、自然とこのような形になっていくのだと思います。
これからの時代に求められるのはクリエーティビティーと匠の技
金丸:小林さんがされている教育は、社会のトップ層に対して行っているものです。逆に教育のボトムアップについては、どのようにお考えですか? 全体の底上げがあってこそ、社会全体のバランスが良くなる面もあります。
小林:そういう意味では、まず20世紀は一定のトップ層と大多数の労働者層に分かれていましたよね。これまでの教育制度は、まさにこれに適したものだったと思います。しかし、今後はまったく違うものになっていくでしょう。「2011年に先進国で小学校に入学する人たちの65%は、今は存在しない職業に就くだろう」ともいわれています。ということは、中間層は皆コンピュータに取って代わられてしまう。とすると、人間が担うのは、とてもクリエーティブな “人間にしかできないこと”になってくるのです。
金丸:非常によくわかります。
小林:たとえば、セラピストなどの形のないものか、美容師のような人の技術を要するもの。おそらく、今後はたくさんの学校がクリエーティビティーの方向にかじを切っていくと思います。つまり、全員が4年制の大学に行く時代ではないのです。たとえばドイツでは早い段階から生徒が職業を見極め、その技を磨いていく教育方針にシフトしています。教育の在り方そのものが変わっていくと考えています。
金丸:デンマークでも、匠の技術をもった職人さんが、大企業の部長と同じくらいの年収を得ています。私も携わっている雇用改革において、匠の技を養成するような道をつくるべきではないかと考えているところです。
小林:同じような質の人を大量生産する時代はもう終わりです。
金丸:そうですね。
小林:手に職が付くような人をきちんと育て、またコンピューターではできない、クリエーティビティーを創出するような教育をしなければいけません。
金丸:コンピューターに脅かされない存在に自分自身がなる、ということですよね。
小林:それなのに、教育の現場は40年前となんら変わっていません。これからの10年、20年は、私たちの想像を遥かに超えるスピードで変化していくでしょう。そう考えると、“学び直し”の機会が、すごく大事ではないでしょうか。今後、なくなってしまう職業や業種がある中で、出直しができる仕組みが必要です。30代、40代になっても、出直せるメンタリティーをもっていないと、一生食べていくのは難しい時代になっていくのです。そのスピード感に教育現場もついていけるかがカギになってくると思います。私たちの学校にこれだけ支持をいただいているのは、ただ軽井沢にある変わった学校だから、ということではないと思っています。皆、この学校が風穴となって、日本の教育を変えてくれるのではないか、と応援してくださっています。大きな期待を感じています。
金丸:私もこのプロジェクトには、大きな期待を寄せています。小林さんのいいところは、本当に純粋で、裏表がないところ。そして、好奇心旺盛で、何かあるとすぐに反応し、突き進むところ。そんな小林さんだからこそ、日本の教育に風穴を開けることができるのではないでしょうか。本日は、どうもありがとうございました。
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