金曜日
On Friday
PM 11:50
コンサートの興奮冷めやらぬまま、普段から地元の人が飲みに集まるクラブ・ストリートに向かう。短いストリートながらも各レストランや店前にはビールやワインを片手に談笑する人で溢れている。
まるでストリート全体がひとつの大きなお店のようになっている。
「よー、修二!元気だったか?」
前に勤めていたIT系会社の同僚で、今はシンガポールに住んでいる佐々木隆司とここで飲もうと待ち合わせをしていたのだ。
真美を紹介し、さっそく三人で群衆の中に入る。シンガポール・グランプリ開催中のクラブ・ストリートはいつもにも増してすごい人の数と熱気で溢れ返っていて、益々ふたりのテンションが上がってきた。
「そうだ、修二。シンガポール・グランプリの期間中は『ズーク ブロック パーティー』って言う地元の人がやってるフリマみたいながあるから、明日ふたりで行ってこれば?結構楽しいよ」
さすがシンガポール在住の隆司。いい情報をくれる。真美も隣で少し酔っ払いながらも「それ行きたいですー!」と笑っている。
「なぁ、隆司。慎吾って覚えてる?」
深夜1時を過ぎてもまだ続々と人が集まってくるクラブ・ストリート。この賑わいの中にいるのは何故か心地が良い。ビールを飲みながら、真美は「また新たなシンガポールの魅力を知れたよ」と言わんばかりに満面の笑顔を浮かべている。
「慎吾ってあの小野寺慎吾だろ?もちろん知ってるよ。アイツいまシンガポールで調子よくやってるみたいだよ。真美ちゃんみたいな美女が好きだから、修二、気をつけろよ〜(笑)」
隆司は冗談半分で言っていたが、冗談ではなくそれは本当だ。慎吾の真美に対する態度から嫌な気しかしていなかったが、やっぱりそうだったのか。
「いまでは資産数億の男だからなぁー。修二、頑張れよ!」
もはや修二の不安を楽しんでいるようにしか聞こえないが、隆司の言っていることは間違っていない。
資産数億円、魅惑の国・シンガポール在住…。男としてのプライドと真美を離したくない思いが急にふつふつと湧き上がる。やっぱり、真美は大事なひとだ。
賑わうクラブ・ストリートからの帰り道、修二はある決断をしたのだった。
次回予告:結婚を避けていた修二。この後、レースと共にふたりの関係が大きく動きだす…!