去年F1を初めて一緒に観戦したとき、高層階から眺めるナイトレースならではのライトアップと、ビル群の間を高速で走り抜けるレーシングカーの幻想的な景色を見て、
「すごいキレイ…宝石箱をひっくり返したみたい」
そう言った真美の顔が忘れられなかった。その宝石箱を見つめる真美の顔もキラキラと笑顔で輝いていたからだ。
「修二には悪いけど、パーティーでイケメンレーサーと話せるチャンスがあるかもしれないし、気合入れないとね」
ふふふ、と悪戯っぽく真美が笑う。
「うーん、やっぱりこっちのオフショルダーの方かなぁ…」
いまやすっかり F1の虜になった真美が黒のドレスを手に取りながらまだ迷っている。
金曜日
On Friday
AM 11:00
「せっかくシンガポールに来ているから、シンガポールらしい所に行きたい」
真美のリクエストに答え、先ずは定番のマリーナ・ベイ・サンズと『ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ』などその周辺に連れて行くことにした。
『ガーデンズ・バイ・ザ・ベイ』はマリーナ湾を見渡せる広大な敷地を持つ植物園で、まるでSF映画のような巨大なガラスのフラワー・ドームの中には、常春の花園や寒冷な高山が再現されている。そのドームに入ると、さまざまな花が豪華絢爛に先乱れていた。その中でも真美は見たこともないサボテンに興味津々だ。
「すごくかわいい。東京へ帰ったらサボテンを買おうよ」
花よりサボテンの選択が真美らしい。
フラワー・ドームの隣にあるクラウド・フォレストに入ると、真美は「ラピュタの世界だ〜!」とはしゃいで何枚も写真を撮っていた。ここはどの場所を撮影しても、インスタ映えするらしい。
「あれ、なんだっけ? ラピュタの呪文」
「破壊の呪文ね。バルスだよ」
即答した修二を笑いながら再び真美はインスタの写真を撮り出した。
修二はインスタにはまったく興味がないが、ジブリ映画はかなり好きだ。世界の樹木や花々のエネルギーに触れることができるこの植物園は確かにジブリに出てきそうな世界観がある。
修二は改めてシンガポールが好きになった。街は活気があり、人柄も良くご飯も美味しい。近代的な建物もあれば巨大な植物園など緑もたくさんある。オシャレなバーやレストランも多く、さまざまな文化を体験できる、まったく飽きさせない場所だった。
金曜日
On Friday
PM 1:30
「こんな場所がシンガポールにあったんだね」
真美の言葉通り、交通規制のためマリーナ・ベイ駅 から地下鉄でシティーホール駅まで向かった先に辿り着いた『チャイムス』はそこだけ時が止まったような厳かな雰囲気。それと同時に現代風のカフェレストランが立ち並ぶ、何とも魅力的溢れる場所だった。
「ここね、昼も素敵だけど夜もライトアップされて本当に綺麗なんだよ。ちなみに結婚式を挙げる日本人カップルも多いんだよ」
教会に見とれていた矢先、真美の口から出た“結婚式”という単語に思わずドキリとする。