「最後の砦」だと思われていた女友達、朋子の結婚の衝撃
タイミングの悪いことに、今日は大学時代のゼミ友達である朋子の結婚式だった。
朋子は黙っていれば顔だけは可愛い女だが、とにかく毒舌で太々しい性格をしていて、彼女は周囲の人間からは「残念なオンナ」というレッテルを貼られていた。
次々と結婚を決めていく女が絶えない中で、朋子は結婚できない女たちの「最後の砦」だと、誰もがそう思っていたはずだ。
「朋子の結婚は、AKB48のこじはるが卒業するのと同じくらいのインパクトがありました。」
実際、結婚式の友人スピーチでもこんな風に言われていた。朋子本人にしても、そんなキャラを自虐ネタとして、いつも笑いをとっていたくらいだ。
そのスピーチで会場中は笑いに包まれたが、杏子は全く笑えなかった。では、独身のまま残された自分は一体何だと言うのだ。同じ仲間であったはずなのに、もはや自分は存在を忘れられてしまったのか。
朋子の夫は同じ会社の3つ年下の営業マンだそうで、イケメンで仕事もデキる男だそうだ。彼の隣で、朋子は得意気な顔で思う存分に幸せに浸っている。
正直キャリアも顔も、杏子の方が絶対に上だという確信があった。性格だって、あんな毒舌女より自分の方がよっぽど知性があって女らしいはずだ。
しかし、ふと同じテーブルの仲間たちを見渡すと、やはり自分より格下に思える女たちのほとんどが既婚者だった。皆おっとりと落ち着いた妻となり、結婚式を余裕で楽しんでいる。杏子のように卑屈な思いを抱いているような女はいない。
杏子はどうしようもない敗北感に包まれ、さらに気分は沈んだ。
結婚は女の逃げ道?結婚願望のない女が持つ選民意識
「はぁ...。」
杏子はうっかり、大きな溜息をついてしまった。
「分かるわよ。結婚式なんて本当に疲れるわよね。それに年下男と社内婚なんて笑っちゃう。あの性格の悪い朋子も、相当焦ってたんでしょうね。まぁ、やっぱり私たちとは価値観が違うってことね。」
みずきがシャンパンを飲みながら、サラっと言った。
結婚式後、同じく独身仲間のみずきと二人でけやき坂の麓近くにある『1967』に移動し飲み直していた。杏子の溜息は全く違う角度から解釈されたようだが、この女に弁解する気はなかった。
みずきも朋子と同じく大学時代からの友人で、彼女は外資系の戦略コンサルティング会社に勤めている。みずきはとにかく仕事人間だ。その辺のエリート男より自分はずっと優秀だと自負しており、結婚願望は全くない。そして彼女は、杏子を同じ価値観を持った仲間だと思い込んでいる。
「ま、まぁね。朋子も結局は結婚という無難な道を選んじゃったのね。」
本心とは裏腹に、杏子はみずきと同様に結婚に興味のない女を装ってしまう。
「20代の頃の理想なんて忘れちゃったのかしら。みんな30代になると、無難な男と逃げるように結婚するわよねぇ。きっと、他に楽しみがないのね。自分の人生にある程度の限界を感じると、女って男に頼ったり子供産んだりしたくなるものなのかしら。」
みずきは背筋をピンと伸ばした姿勢で、毅然とした態度を崩さない。彼女は結婚に無関心である自分に、選民意識すら持っているのだ。
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