2016.05.18
コリドーDAYS Vol.1時代が変わるのと同じで女も変わる
“タクシー代を貰える”ことに味をしめた美穂は3年経ったいま、コリドー街の常連となった。昔と付き合いも変わり、今日はご年配の男性との会食。「懐石が食べたい」という彼女のリクエストに答えて、『日本料理 銀座 大野』へ足を運んでいた。
銀座コリドー街の袋小路の奥に佇む一軒家。素材を生かしつつ、手をかけた料理はどれも鮮やかに印象に残るものだった。ワインは精鋭ソムリエがセレクトしてくれるので、そこも美穂のお気に入り。いつものように美穂の近況報告を聞き、「若い子は面白いね」と嬉しそう。今日は友人も混じえてなので、いつもより彼は楽しそうだ。
「若い子の話が聞きたい」という理由だけで、美味しい食事を提供してくれる。もちろんそれ以上の関係はないし、迫られたこともない。だからこそ美穂は関係を大事にしようと思うし、孫のように気を遣わず接してあげたいと考えている。
もちろん礼儀は忘れない。彼との出会いもコリドー街でだった。お店を探しているところに美穂が遭遇し、道案内をしてあげたことでお礼にと食事を御馳走してくれたのだ。そこからは週に一度会う仲になっている。
ご高齢ということもあり、21:00を過ぎると眠いからと彼は帰ってしまう。そのあとはコリドー街へ繰り出すのが美穂の日課だ。
美穂流・コリドー街の楽しみ方
21:00を過ぎれば残業帰りの人も増え、さらに賑やかさを増す。美穂は最初に5分で何人に声を書けられかけられるかを予測し、数が近かった方がシャンパンをごちそうしてもらうという遊びを女友達だけで楽しむ。
そのままお店で人間観察をし、あの子たちはどの男についていくかというくだらない話で盛り上がる。男性と合流してしまうと、しばらくは一緒にいなければいけない。相手が良ければいいが、初めてのときのように初々しい気持ちではもう楽しめなくなった。
この3年で男性のストックも増え、正直新規開拓はそこまでの人でなければしたいとは思わない。それでもコリドー街に来るのは、男性にちやほやされたいという心理であり、それだけでいいのだ。
あとは電車で帰りたくないときのためにタクシー代を稼ぎに行く。声をかけられた人の中から羽振りの良さそうな人を選びお店に入り、30分したら「電車が混むの嫌だから」と帰る素振りを見せる。いいじゃん、と言われてもタクシーで帰ることになるから…と言えば大抵は「そのくらい出すよ」と言ってくれるのだ。
そこからは時間を気にせずお酒を楽しむだけ。男性のトークは殆ど聞いていないが、とりあえずオウム返しをしておく。古典的だが、人というのは話したことを繰り返されただけで聞いてもらえたと感じる。
もう帰りたいとなれば相手の名刺をもらい、「後日連絡するね」と言ってタクシー代を受け取る。3年前の自分は律儀に裕也に連絡をとり、タクシー代のお礼として食事に行った。しかし今の美穂は“使える”と思った相手以外には連絡をとらない。あのとき思った「お礼をしないのは人としてどうか」という人間に変わってしまったのだ。
コリドー街が美穂を変えたのか、彼女が勝手に変わったのかはわからない。
ひとつ言えるとすれば、どんなに上手に遊べるようになっても、あの時の初々しい自分を演じること美穂はもうできないだろう。
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