コリドーDAYS Vol.1

コリドーDAYS:23歳の自分にはもう戻れない。初々しさを奪われながらコリドー街を楽しむ女

山手線新橋駅と有楽町駅を結ぶ高架下に連なる、赤い屋根が目印の飲食店街は“銀座コリドー街”と呼ばれる。質のいいレストランが多いなか、ここは良質な(?)出会いにも恵まれている。通りの両サイドには飲食店が並び、『スナッパー』『300BAR』『333』といったナイトスポットも。

女性はほぼお声がけされると言われていたり、男性は自分の腕試しと様々な思いが入り乱れている。学生時代は自分の大学のテリトリーで青春を謳歌していたが、社会人となった今はここが新たな青春の場。

“甘酸っぱい”とまではいかないが、ほろ苦い青春記を少し覗いてみよう。


<今週のミスコリドー>

氏名:美穂26歳
職業:商社・総務
出身:東京
年収:350万
住居:勝どきのマンション(実家)
趣味:キャンドル作り
好きな芸能人:東出昌大

「何してるの?」が挨拶


コリドー街は仲の良い先輩の奈々に連れられて、23歳のときにデビュー。これまで遊んでいた渋谷、六本木とは違う異色のエリアだな、と美穂は思った。銀座という場所は上品な大人が集まり、ナンパなどは無縁の世界。しかし、このエリアでは男女が互いに心理戦をかわし、あわよくばな展開を目論んで来ている。それなのに下品にまで成り下がらないのは、来ている人間の質がいいからなのだろうか。

「コリドー街に女性が入ればすぐに声をかけられる。きっと美穂なら5分もしないで話しかけられるよ」

そう言われて足を踏み入れると、予想を超える1分という短さでサラリーマン風の男性二人に話しかけられた。見た目は悪くないと思ったが、奈々の顔を見ると興味がない素振りだったので、当たりではないのだろう。一度声をかけられたからなのか、次から次へと男性陣が近づいてくる。クラブでのナンパとは違い、無理矢理に連れて行こうと考えるしつこい人はおらず安心した。

男性陣はまるで挨拶を交わすように話しかける。ダメなら次と切り替る速さには、メンタルが強いなと感心すらした。5分ほど歩き、奈々の足が止まる。どうやら、今話しかけてきた二人組に決めるつもりのようだ。

初々しさ残る、初めてのコリドー街


『ヴァプール』というスタンディングバーで飲むこととなり、互いに自己紹介をする。奈々の隣をキープしているのは“直樹”で有楽町の商社に務めているという。美穂の隣りにいるのは彼と同じ会社の先輩で“裕也”。「お互い先輩・後輩の関係なんだね」なんて話しながらビールを乾杯した。最初は4人で他愛もない話をしていたが、徐々に個人戦へ。

裕也は美穂の5歳上だった。コリドー街には久しぶりに来たらしく、「女子のレベルが上がっててびっくりした」と美穂にリップサービス。女性の扱いが上手いだけあって、見た目は申し分ない。美穂が初めてコリドー街に来たと聞いて嬉しそうな表情を見せた。男性はよく女の最初になりたがるというが、“初めて”というのはそんなにも嬉しいものなのだろうか。

奈々の方も話が弾んでいるようで、早々に連絡先を交換していた。「じゃあ、俺も」と言われ裕也の名刺をもらう。初対面の人に自分の身元を明かすなんて、これがコリドー街の常識なのかと思うと少し怖くなった。名刺のない美穂はあとでメールをしておくことを約束。

気付けば時間は23:30を回り、そろそろ終電も近い。勝どきに住んでいる美穂は歩いて帰ることもできたが、お酒を飲んでいるためタクシーで帰ろうと思っていた。奈々に帰りたい視線を送ると「ちょっと待って」と言わんばかりに裕也に耳打ちをする。店員さんを呼びお会計を済ませた裕也は、そのまま5,000円を美穂に手渡した。

どうやらタクシー代としてくれるらしいが美穂の自宅までは2,000円で事足りる。もらうだけでも申し訳ないのに金額が多いと返そうとしたが、「なら今度会ったときに」と言われ受け取ってもらえない。ここで会っただけの関係、このまま二度と会わないということもできる。しかし、それは人としていけない気がした。「じゃあ必ず後日……」と約束をし、ちゃっかりタクシー代をもらっていた奈々と先に店を出る。

「初めてのコリドー街はどうだった?」と奈々に聞かれ、「なんかドキドキしたけど、楽しかったです」と返すうぶな美穂。できることならこのままの初々しい彼女でいて欲しかったが、コリドー街にハマった美穂が変わるのに時間はかからなかった。

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