麻衣子は、勘ぐるでも、言葉の真意を読み取ろうとすることもなく、そうねぇと考えた。
「ホテルのライブラリーみたいな、本がびっしり入った本棚に囲まれた部屋があったら最高だなぁ。」
麻衣子の言葉に、僕は、うんうんとうなづく。出版社勤務の麻衣子らしいインテリジェンス溢れる未来だ。僕は、店内をぐるりと見回し、海外の洋書や雑誌、書籍の類が所狭しと並んでいる僕と麻衣子の新居をイメージした。
「パークハイアットとか、アマン東京のライブラリースペースとかすごい素敵だよね。」
ひょいと会話に出現した、「パークハイアット」「アマン東京」という不穏なキーワードに、僕の胸はにわかに騒ぐ。僕は、パークハイアットはおろか、アマン東京にも行ったことがない。アマン東京は、確か2015年にできたばかりだったと記憶しているが、麻衣子は誰と行ったのだろう・・・
麻衣子と僕の未来予想図に、ふいに男の影がチラつく。そんな僕の心中など察するはずもなく、麻衣子は続ける。
「あ、けど一番好きなのは、軽井沢星のやのライブラリースペース!正方形の大きめのソファーがあって、そこで、ゴロゴロと本が読みながら過ごす午後、幸せだろうなぁ。」
恍惚とした表情で斜め上を見上げる麻衣子の、その斜め上に思い浮かんでいるであろう男に、スタバのエクストラホットのコーヒーをかけてやりたい衝動をどうにか堪える。
—軽井沢星のやなんて、男としか行かないだろう・・・誰とだ?—
夏の入道雲の如くぐんぐんと肥大化する良からぬ妄想にうぐぐと黙る。
麻衣子は、キラキラと未来予想図を語る。
「あとは、宮古島のアラマンダにあるようなデイベッド。日当たりのいい窓側にどかんと置いて、休日とか一日中ゴロゴロしてたい。」
—アラマンダ・・・?—
もはや僕の知り得ない、ラグジュアリーホテルの名前。そこから垣間見える麻衣子の男たちの経験値と経済力の高さに、さっきまでの浮かれモードは意気消沈。息も絶え絶え虫の息だ。悪友にそそのかされて、勝手に「もし、麻衣子と結婚したら」などという妄想が先走ったが、麻衣子こそ僕のことを「男友達」としか見ていないのかもしれない。
—32歳の精神的にも、経済的にも自立しているであろう女の、人生に介入することの難しさよ・・・—
那奈や史織ほど、明確に愛情表現をされたわけでもないことに改めてはたと気づく。僕との結婚への期待など1mmもしてもいない麻衣子に、若干上から目線で温情をかけるかの如く接した自分の青さに情けなくなる。
そんな僕に、狙ったかのようなタイミングで麻衣子は囁いた。
「でも・・・どんな部屋より、こうして、話が尽きない男性がそばにいることが一番幸せなんだろうね。」
「!?」
奈落の底からV字回復したスーパーマンのように、一度は落ちた気持ちが、急激に加速する。
そんな僕の一喜一憂を見透かしてか、いたずらっ子のような目で僕を見る麻衣子のつぶらな瞳に、僕は引き寄せられた。
—やはりモテキは、嘘じゃない・・・—
那奈に史織に麻衣子。3者3様で魅力的な女性たち。
もし、僕が、この中から一人、選ぶとしたら・・・・???
【第三話完】
●次回予告(5月19日公開予定)
人生の絶頂、モテキを迎えた直樹は果たして、インストラクターの那奈、CAの史織、編集者の麻衣子、誰を選ぶのだろうか?
直樹が結婚を決意する女性とは・・・!?
理想の住まいプロジェクトはこちらから
「クレヴィアクリエイティブチャレンジ」
■衣装協力
男性●ジャケット¥58,000、パンツ¥23,000、シャツ¥18,000〈すべてデザインワークス〉、ネクタイ¥14,000〈アトリエ エフ ビー/すべてデザインワークス ドゥ コート銀座店 TEL03-3562-8277〉
■主演
赤池直樹役:大迫一平