鎌倉カレンダー Vol.1

鎌倉カレンダー:消えない「焦燥感」。東京で消耗した男が人間を取り戻した鎌倉の海

東京生まれ、東京育ち。

学生時代から就職まで、一通り都会で過ごしてきた透(27歳)は、一流企業に勤め高い年収を稼ぎ、女にも不自由しない生活を送る。しかし、生粋の東京人である透は、実は都会に消耗していた。

これは、そんな彼が「鎌倉」という街で少しずつ人間らしさを取り戻していく話。


”Greed is good”(強欲は善だ) 資本主義の、「使われる側」の人間にはなりたくない


海を見ると、やっと、肩の力を少し抜くことができます。

七里ヶ浜の駐車場内にある『Pacific DRIVE-IN』でコーヒーを買い、波乗りのあとに海を眺めながら一息つくのが好きです。海を眺めてぼーっとしていると、平日の焦燥感からやっと解放されるんです。週末になると海に行く、というのはここ数年で日常になりました。

平日は結構忙しく過ごしていて、プライベートな時間は同年代と比べても少ない方だと思います。仕事は、いわゆる「外銀」です。

今、僕に対してどんな印象を持ちましたか?あの最近流行っている歌みたいに、「あぁ、金だけ」と思った方も多いんじゃないでしょうか?平均と比べて高い年収は、もちろんこの業界の魅力ですけどね。


でも僕は昔から、「経済」というものがただ好きでした。経済なんて、一般的に普通に人が暮らしている分には、直接目に見えるものじゃない。でも例えば、円とドルの取引にしても1日で約5兆円の金額が動いていたりするんです。

それだけでなく、複雑な金融商品が絡み合って、専門家だってよく分からないような取引が多数存在し、莫大な金額が日々動いている。僕はそんな架空とも言える経済に、人が作った文明みたいなものとしての魅力を、昔から感じていました。

高校生の頃に、「ウォール街」という映画を観ました。そう、”Greed is good”(強欲は善だ)のスピーチで有名な、あの映画です。映画の中では、人が考え方1つでその経済を動かし、莫大な金を儲けたりします。初めて観たときは、体が内側からザワザワとしました。「資本主義」という考え方に、たぶん男なら誰しもが持っている野心、まさに“Greed”を刺激されたんだと思います。

僕も普通の男ですから、単純に金持ちになって豪遊したり、綺麗な女の人にモテたりする人生にも憧れました。それと同時に、経済のことが分からない情報弱者にはなりたくない、負け組になりたくないとも強く思いもしました。そう、あの映画の主人公の父親のような、資本主義の「使われる側」である、いわゆるただの労働者、みたいな人種に。

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