「連邦軍のモビルスーツは化け物か!」
ジオン軍のエースパイロット、シャア・アズナブルがガンダムと対峙した時の気持ちが今ならわかる。京都という町は、知れば知るほど底が見えない。
京都クエストとは35歳で京都デビューを果たした主人公の中田晃二が、RPGのように仲間を増やし、経験値を重ねることで古の都を冒険していく愛と成長の記録である。
35歳の“勝ち組”に突如襲いかかった悲劇
リーマン・ショック後も外資系金融の不動産投資部門で生き残り、晃二が独立したのは5年前。東京とシンガポールを拠点にしたアセットマネジメント事業が波に乗り、今では東京とアジアの生活が半々だ。
キャセイパシフィックのビジネスクラスに乗り込み、ビルカール・サルモンの泡を眺めていたところにミナからLINEが入る。「香港から戻ったらすぐ会いに来てね」、スマホを見ながらニヤける男というのは他人から見たら実に気持ちが悪い生き物なのだろう。視線をあげたところで、キャビンアテンダントがさりげなく目を逸らした。
“勘違いは男の特技”
そんな残酷な事実を思い返す羽目になったのは、翌日のランチタイムのことだ。2週間ぶりに会ったミナの口から出たのは「ごめんなさい」という別れの言葉。昨晩のLINEの「すぐに会いに来てね」で妄想が入った俺って危機管理が無さ過ぎ?
結婚さえ考え始めていた晃二には、青天の霹靂どころか、ミッキー・ロークの猫パンチ。とどめは「若旦那さんからプロポーズもされちゃったの」というハニカミを必死で隠そうとするミナの横顔だった。
「若旦那ってのは、ドラクエのラスボスか?」いくらあがいても復活の呪文は効きそうにない。そう悟った晃二に出来ることは、この場を早々に切り上げることだけであった。
別にミナのことが気になったからじゃないよ
あれから2ヶ月、「俺がここに居るのはミナとは関係ない」京都駅のホームに降り立った晃二は自分に言い聞かせる。とはいえ月曜の商談のために、土曜日に前乗りするなんてことは今までにはあり得なかったことだし、早起きをして新幹線に乗るなんていうのも晃二にとっては事件以外のなにものでもない。
ぐらぐらのプライドをなんとか支えているのは、今日の約束だ。親友の遼から「10年ぶりに日本に帰国したから遊びにおいでよ」と誘われていたのだ。
遼は大手広告代理店の海外駐在員で、以前はミラ・クニスのようなミスマレーシアを彼女にもっていた凄腕の男である。東京オリンピックのPRチームに切望されながらも、敢えて帰国後の赴任先に選んだのが京都。ヤツがわざわざ選んだという京都には、一体何があるんだ? ミナといい、遼といい俺の周囲の人間は、何故か京都に吸い寄せられていく。
駅を出てタクシーに乗り込み「すみません、『飄亭』まで」と行き先を告げる。食べログを見ていて知ったが、お粥が5,000円くらいする料亭ってなんなんだ? そんな晃二を待っていたのは衝撃の体験だった。
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