京都クエスト Vol.1

京都クエスト: 東京で成功を掴んだはずの35歳男が敗れた理由

京女のおもてなしは、本当に粋だった


「お、そろそろ薫が来る頃だ」お店を出て、遼のあとにつづく。薫というのは、京都に戻ってきた遼が早速付き合っている彼女らしい。

朝食とはいえ、ゆったりと食事をしていたので陽射しが眩しい。新緑のトンネルの下で、晃二は京女とファーストコンタクトを果たした。


「はじめまして、薫です。ようこそ、おいでやす」

「あ、どうも晃二です。京都の人ってほんとにおいでやすって言うんですね」

晃二さんが東京から来はったから、使っただけですよなんていじられる。褒められてるのか、けなされてるのかわからないが、無邪気に笑う薫ちゃんを見ていると悪い気はしない。

「朝ごはん、食べてたんですよね。そしたらお茶でもいかがです?」

二人と並んで歩き出し小さな門をくぐる。こんなところカフェでもあるのかなと入ったところは、『無鄰菴』という山縣有朋の別邸だった。


カフェに行くのかと思って油断していたせいもあるが、なんてことのない門かの先に、こんな開けた空間があることにまず驚いた。グランメゾンをはじめ、ファサードは権力の象徴と刷り込まれてきた晃二に、このギャップは新鮮すぎる。

山縣有朋といえば伊藤博文と並び、明治維新で低い出自ながらも、内閣総理大臣や陸軍大将を歴任した政官界の大御所。権力の中枢に居続けながらも「わしは一介の武弁」と称するのが常だったという漢(オトコ)の中の男だ。

小説か歴史の教科書に載ってる偉人の痕跡を、こんなにも近く感じられることが面白く、また偉そうな人だなと思ってた人物が高い美意識を持っていたことに、感動を覚えている自分がいる。

そんな晃二の心境をわかってか、しばらく放っておいてくれた2人が戻ってきた。「そろそろ、お茶をいただきましょうか」、すっかりお茶のことなど忘れてい晃二。もう少しここに居たかったな……と思いながらも2人について歩き出す。

名残惜しそうに庭を振り返った晃二に「ここで靴脱いでくださいね」と薫が笑顔を向ける。どうやら、『無鄰菴』を気に入っていたのはバレバレらしい。そしてここでお茶がいただけるようだ。完全にまな板の上の鯉な俺。はいはい、東京の田舎者はついてきますよ、貴方たちに。

庭を眺めながらお抹茶をいただくという贅沢


3人が座ったのは、『無鄰菴』の庭を眺めることができる畳の部屋だ。サプライズには慣れたつもりだったが、圧倒的な美の前に言葉を発することを忘れていた。さっき歩いた庭も相当綺麗だったが、切り取られた景色の美しさはまるで比にならない。

「こうやってレイヤーで景色を楽しむことが出来るのが、日本の美なんだよね。」と遼。シンガポールから帰ってきたばかりのはずなのに、言葉の意味が自然と肌から伝わってくる。さすがは京都でクールジャパンのプロジェクトに携わっている男だ、本質を捉える表現力は伊達じゃない。

ここでいただいたお抹茶の高揚感は、パリのサンジェルマン・デ・プレのカフェや、カプリ島のバールを訪れた時にも全く引けをとっていないと思う。いやいや、京都おそるべし。

晃二の京都をめぐる冒険は、まだまだ始まったばかり。

この衝撃的な朝が、これからはじまる冒険の序章に過ぎないことを晃二はまだ知らない。


次回予告(5月19日公開予定)

京都と京女の魅力にすっかりと舞い上がっていた晃二、なんと今度は芸妓さん!?

おいおいミナちゃんはどうなった?

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