京都クエスト Vol.1

京都クエスト: 東京で成功を掴んだはずの35歳男が敗れた理由

これが、京のお粥なのか!?


タクシーを降りた晃二は、思わずつばを飲み込んだ。それなりにレストランでの経験は積んできたはず。東京でもシンガポールでもパリでも、どんなお店に行こうと余裕のある振る舞いが出来ていた……。それなのに、なんだこの木の門は。くぐっただけでプレッシャーをかけてきやがる。

予約の名前を告げて通されたのは『飄亭』の別館。本館はすべてが独立した離れ座敷らしいが、こちらはモダンさを感じる和の設え。グランメゾンやリストランテとは異なる凛とした空気、遼の姿を見つけた時に、どこかほっとしている自分がいた。


久しぶりにあった遼は、相変わらずのマイペース。挨拶もそこそこに『飄亭』の朝粥の由来を話しだした。

「ここの朝粥って祇園遊びをした旦那衆が芸妓を連れて早朝にやってきて、店の者をたたき起こして作らせたのが始まりらしいよ。ほら、晃二ってわがままじゃん。この話を聞いた時にお前みたいだなと思って『飄亭』にしたんだよ、あはは」

”あははじゃねーよ”と思いながらも、そうした遼の心遣いが沁みる。そうこうしているうちに、お皿が運ばれてきた。

「え、これがお粥? 想像と違うし、めっちゃ旨そうなんだけど」


そう、『飄亭』の朝粥とは、単なるお粥にあらず。八寸や重ね鉢に椀もつく、日本の朝の贅沢な遊びなのだ。一見地味なように見えて、どれも丁寧な仕事で繊細な味わい。さっきまでの緊張感が、嘘のようにほぐれてくる。

なんてことのない卵に見えるけど、この半熟卵のテクスチャはなにごとだ!

タクシーで「お粥と漬物を適当に並べて、観光客から暴利を貪る京都の偉そうな老舗なんじゃないの」なんてことを考えていた俺は、本当に”坊や”でした。

そんな晃二の心を知ってか知らずか、遼は「最初、なんでみんながお粥にありがたがってるのか意味が分からなかったんだけどね。でも来てみたら日本の美がここに詰まっていると思ってびっくりしてさ。しかも朝からこの雰囲気で日本を感じられる食事ができるじゃない? だから昼ごろのフライトで、帰国する海外の友人とか連れてくると評判よくて」なんてことを話しだす。

いやいや、海外のゲストだけじゃなく、日本人ですら痺れるから。お粥をしっかり3杯ほどおかわりして、大満足の朝であった。

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