
男は還暦から:なぜ、今、60歳以降がモテるのか…完全に説明する
私は立ち去るバーテンダーの背中に「バケツじゃなくプール一杯、お願いします」と付け加えながら、思うのです。over還暦に対していいな、と思うのはこんな時だな、と。
昔からずっと評価されてきた完全無敵のイケメンたちが、歳をとるにつれて出来ないことが増えていく。それを受け入れた時こそ、男は輝くのです。
男はいつでもどこでも、何をしていてもジャッジされる宿命にあります。
小学生の時は足が速いとか、話が面白い男が勝ちます。
中学生や高校生の頃だと勉強ができるとか、家柄がいいとか、なんとなくちょっとワル、そんな人がモテます。
大学生の頃になると、お金を持っているとか社会に影響力を持つ学生が引き手数多になります。
社会に出ると、学歴があるとか大企業に勤めているとか、住む場所、乗る車、スペックで判断されます。
それを経て、社会(なんとなくここでは世間とかオンナとか)から選択をする権利もされる権利もない、というのは、釈迦の世界に突入しているようで、煙に巻かれているようで、だからこそ私もなんとなくスルーして、それが最高に心地いい。
選択…か…。
「もう帰っていい? 今日ワイフが旅行中だから、家に帰って洗濯しなきゃ」
え、ちょっと、まだ、待ってください。まだまだ聞きたいことが、たくさん。還暦を突破するって、どんな感じなんですか?
「豊潤な時間を楽しむ、だね。古今東西の天才たちが到達した老年で遺した遺作にシンクロできるのは、ここに立ってみて初めて見えてくるものだからね。一語一句に潤沢な時間を過ごしたからこそ、今はハーヴェストタイム。収穫の時間だと思うんです」
五木寛之が“林住期”と呼ぶ、その人生におけるジャンプ期を体現していますね?
「僕が収穫の時期として、今を楽しめるのは若い頃に種を蒔いていたからです。この歳になって君たちみたいな若い人たちが活躍しているのを目を細めてみるというのも収穫なんです。収穫期に備えて種を蒔け、っていうのはひとつ言えるかもしれない。
種蒔きといえば、アレだネ!!!」
そう宣うとバーテンダーに向かい、「アールグレイをいい器で頂戴」
え…………
それは、蒔いちゃいけない種! 「ネ!」が昭和! そしてこの後に及んで、紅茶!
「ま、冗談だけど。昔だったらとっくに死んている歳なのに意外とギラギラしているし、テカテカしているしね。
歳をとると丁寧になるし、今以上に人が愛おしくなるよ。この歳で遅刻もしないでちゃんと働いているしね。
年齢っていうのは数字に過ぎないかもしれないけれど、歳を表すときちんと24色の絵の具なんだよ。
16歳が黄色だったり、28歳が赤だったり。感性で変化していく。君が言うように時間は平等だけど、残酷な事に感性は平等ではないんです。黒と赤が違うのと同じように」
私ちょっとグレーです、今。
「運命ですwwwwwww」
えー。うそん。
「でもこの歳になって思うのは、何色でもないよね」
またこれ。
「僕は早く歳をとりたい。歳をとることが楽しくて仕方がない。人が死ぬのは早いか遅いかの違いだけで、
理由なんて、本当は関係ないんです。吉田兼好も言ったよね、
『死は前よりも来らず。かねてよりうしろに迫れり。』
メメントモリっていうじゃない。でも死は、見えないけど”前に”存在しながら徐々に近づいてくるものではなくて、やることがたくさんあるのに不意に”背後から”ポンと肩を叩いてくる不躾な同僚のように、突然来るものなんです」
『徒然草』の“人皆死ある事を知りて、待つことしかも急ならざるに、覚えずして来る”ですね。遙か遠くまで続く浅瀬が、潮で満ちてしまい、消えて磯になるのと似ている、という。
「僕は注意深く生きているから、とりあえず200年は生きるよね?」
ここにきて、意外と生に執着してます?
「僕たちに必要なのは、時代と時代を繋ぐリレー者であるという意識なんだよ。
自分がいたからこの時代はよりよくなったという自負を持って死なないと。それでいて『自惚れんな、自惚れるな』と言い聞かせながら毎日を生きる。じゃあ、洗濯してくるね」
そう言って、アールグレイを飲み干し、突然去っていったミッキー。
これだから、還暦はやめられない。
煙に巻かれたまま、私も帰って洗濯します。
ということでどこに向かうのか五里霧中な新連載、スタートです!
(続くの……⁉︎)
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