幸せな離婚 written by 内埜さくら Vol.5

幸せな離婚:妻だからこそ憂う夫の仕事と金銭感覚

前回までのあらすじ

フリーの映画プロデューサーをしている真壁恭子(35)は夫との離婚を思案中。

フリーライターの夫、竜也(41)の仕事が激減して生活費を入れなくなった上に、夫が家事を一切行わず恭子に甘えっぱなしだからである。

だが竜也に請われて恭子が資金を貸したことで、竜也の仕事は順調に進み始める。果たして借金返済日となる初日、竜也はいくら渡すのだろうか……?

第4話:夫の不審に見える行動と女友達が恋する相手

恭子が売れっ子小説家である杉森 樹の出版記念パーティーに出席し、竜也が事務所に泊まった日の翌日。

恭子は赤坂見附の事務所でひとり、映画化できる原作探しに没頭していた。

映画プロデューサーは企画立案が仕事のひとつであるため、なにを原作に選ぶかも重要な業務である。恭子はオリジナルの骨組みを考案することもできるが、昨今は漫画や小説などの原作がある方が事業にしやすい時代だ。「原作が何万部売れている」と記載すれば稟議が通りやすいからである。

だから現在の映画界には原作を映像化した作品があふれ返っていて、恭子もオリジナル作品が減少している現実に憂いているが、趣味で映画プロデューサーをやっているわけではない。生活費を稼がなければならないのだ。

映画プロデューサーはその人によって仕事の進め方が異なり、一度に数十本の企画を動かして1本のヒット作を狙う人間もいれば、少ない本数をじっくり進めていくタイプもいる。恭子は後者でその中に必ずオリジナルを含めてはいるが、なかなか企画が通らない。そんなわけで原作探しをしているのだった。

ただ恭子は幼い頃から漫画や小説を読むことが好きだったため、苦ではない。ある小説に我を忘れて夢中になっていると、PCアドレスと連動しているスマホがメールの着信を知らせた。昨日の杉森であった。

「昨日は『お聞きしたいことがある』とわたしから申したのにお話できず、すみませんでした。もしよろしければ近々、食事でもいかがですか」

そう、結局、杉森とは二次会でも話す時間はなかったのだ。杉森が銀座にあるイタリアンレストラン『バラババオ(BARABABAO)』の貸し切り個室で開催した二次会は、パーティー同様、満席状態だったからだ。

人柄もよく、今をときめく杉森に歩み寄った人間は皆、杉森を放すまいと必死に会話に花を咲かせているように見えた。

「ええぜひ。喜んで」

杉森が自分に「聞きたいこと」という内容も知りたかったし、人気小説家との縁はつないでおきたいため即レスし、日程を決めた。そして読みかけの小説に目を戻すと、今度はLINEが着信を知らせる。竜也だった。

「久しぶりに今日、外で飯でも食べない?」

――よかった。仕事が順調なんだ。

恭子はほっと胸を撫で下ろした。今日は竜也が初めて自分に借金を返済する日である。

その当日に外食へ誘うということは、仕事が捗っていている証拠だ。借金を返済できないのにそんな誘いができるわけがない。だから恭子は安心して仕事が終わる時間を伝えた。

文庫本1冊を完読するのに平均3時間ほどはかかるだろうか。漫画と小説数冊を読み事務所の窓から夕日が差し込む時間帯になると、またLINEが着信を知らせた。

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